第40話 下山
ライナーとカルルが槍の穂先と探検の刃を拭いながら戻ってくると騎士さまが
「これで討伐は終了だな」
と宣言した。
カルルが通りすぎざま、
「穂先は拭っておけよ」という。
なんとも、あの鼻垂れのカルルが!
「うん」と複雑な感情を抱いたまま返事しておく。
「子熊はもって帰るが、母熊は解体していく」
という騎士さまの指示で、みな総出で熊の巨体を解体していく。リーシアもいつまでもだらけてはいられない。子熊の死体はそばの木の枝に逆さに吊るし、血抜きをしておく。
血抜きは早いうちにしておかなくては血管の中で固まってしまい抜けなくなるし、腐りやすくなる。
母熊は腹を裂いて内臓を取り出す。まず最初に取り出すのは胆嚢。すぐに先を縛って、胆汁が漏れないようにし、騎士さまが腰に吊るす。レインベルトさんによれば、どうやら薬になるらしい。リーシアの村、ヴェイツェンドルフでは山から離れていて、熊など見たこともなかったので感心することしきりだ。前世の知識でもどっかで聞きかじってきた程度のもの。
胆嚢以外のほとんど内臓は持ち帰れない。子熊の内臓も血が抜けたら分ける。腹を裂いて、胆嚢、肝臓を取り出す。胆嚢は母グマ同様に口を縛って吊るす。肝臓は母熊のものと合わせて布に包んでおく。他の内蔵は持ち帰れないために母熊の体と一緒に穴を掘って埋める。
さて、1番の問題はオイゲンさんの無惨な死体だ。
熊のように解体してというわけにいかない。かと言ってあちこち骨が折れてブラブラしている上に腐敗が始まってものすごい匂いがしている。持ち帰らないわけにもいかない。
逆に言えば、オイゲンさんの死体がなければ、母熊の肉も持ちかえれた。が、仕方がない。やむなく騎士さまの布を広げそこに納めていく。
騎士さまがものすごく嫌そうな表情をしているけれども、これも騎士の務めと自分に言い聞かせているようでもある。救いだったのがオイゲンさんには悪いが五体がバラバラだったことだろう。たかっていた蝿を追い払い、胴体を布の上におく。胴体の両脇に足を並べ、布の端を畳んでいき縛る。さらに縄を十字にかけ、蝶結びにした。布を重ねているので、匂いはなんとか我慢できるぐらいにはなった。
竈を解体して、燃えさしを散らす。最後に、母熊を埋めた穴に全員で迷わないように祈りを捧げ、空き地を後にする。
くだりの先頭はレインベルトさん。ライナーさんがオイゲンさんを背負い、グンタハールさん、フェルディナントさんがそれぞれ一頭ずつ子熊を背負う。
騎士さまもついに自分の鎧櫃を背負い、カルルとリーシアで全員の鎧と兜を纏めてもつ。これでは楽をさせてもらってるんだかもらってないんだか・・・。
それでもくだりは足を滑らせやすいし、道も見えにくい。登りよりも時間をかけてゆっくりと降る。気温が上がってしんどくなってきた頃に小休止をして、軽く水分の補給をほし肉をかじっておく。
今日は長い日になりそうだ。




