第37話 緊張
広場に緊張が走る。リーシアも顔を上げる。
ガサガサっと藪が動く。騎士様は腰の剣をつかみ、皆は槍を構える。
かなり暗くなってきた森の奥をすかしみると、黒い大きな影が動いた気がした。
ゴクリ、という大きな音が聞こえたのでギョッとしたが、自分が唾を飲み込んだ音だった。体をかがめて、足元に置いておいた、縦と槍に手を伸ばす。音を立てないようにゆっくりと。それでいて森の奥から視線を外さない。
指先が触れると、音を立てないようにそっとつかむ。
砂利に当たって音を立てないように。
と、やぶから「ギャアッ!」っとけたたましい声をあげて鳥が飛び出てきた。
思わず顔をおおって伏せてしまった。
胸から飛び出さんばかりに心臓が脈打ってる・・・。
び、びっくりした・・・・。
息を整えた上で、顔を上げれば、騎士さまと年長の従士以外は皆リーシア同様に顔を上げるところだった。恥ずかしい。
ただ、こうして気が緩んだ時が危険なんだと神槍の記憶が囁く。
盾、槍をあらためて構え直す。
パチン!と、火に焚べた枝が爆ぜた。
他の従士には弛んだ空気が漂うが、騎士さまは腰の剣から手を離していない。
まだ、まだだ。
気の緩んだ従士が騎士さまをみてハッと気がつき、また構え直す。
ライナーさん、フェルディナントさんがまた、周囲に目を配り直す。
と、ふうっと騎士さまは息を吐いて、剣から手を離す。
「構え解け」
今度こそ、皆の緊張が解ける。
カマドの火が少し燃え尽きかけてたので、木を焚べて、水をみたしていた鍋をかける。水筒に補充するにしても、湯冷ましでないと怖い。
火のそばにレインベルトさん、騎士さま、そしてカマド番のリーシア。
ライナーさん、フェルディナントさん、グンタハールさん、カルルが四方に陣取る。
「湯を沸かしたら煙を立てろ」
と、騎士さま。
「は」と返事をする。
日はずいぶん傾いた。多分、今夜は野営だ。




