第36話 罠
みんなの話を総合すると、熊を討たない間は遺体の回収などは問題外だそうだ。熊は自分の獲物、食べかけの餌を奪われるのを許さない。
下手にオイゲンさんに触ったら、災厄を村に呼び込むようなものだ。熊が近くにいるだけでも災害のようなものなのに、わざわざ事態を悪化させることはない。
このまま熊が村の作物や家畜に手を出さなければ、かろうじて村の壊滅は避けられる。もっとも、熊がそんなことを保証してくれるわけもないから、こうしてリチャードさまが出張っているわけなんだけど。
なんとかこれ以上の被害者が出るまでには、この熊を討伐しないといけない。
騎士様が悩んでいるのは、熊の習性を活かしておびき出して討伐するのか、ここから捜索して討伐するのか・・・。
おびき出すのだったら遺体を回収していくのも一つの手ではあるけれど、その場合はこちらの油断しているところを狙われる可能性がある。それは避けたい。悩む騎士さまをよそに、リーシアたち従士は周辺の警戒をする。こんな時に襲われたなら、ひとたまりもない。
かさ、かさと木の葉ずれの音がして注意をやるが、タヌキのような小型動物だった。
遠くで烏の啼く声が聞こえる。
ややもすると、注意が散漫になりがちだ。兜の内側を伝った汗が目に入らないようにはしなくては。
額をぬぐうと、兜と盾がふれ、音が響く。
ドキッとするが、それは皆もおなじだった。それぞれわずかな金属音がなる。
「ここで罠を仕掛ける」
小さな声ながら、空き地の皆には聞こえた。
「では私が」と言って、リーシアが空き地の中央に行く。
ざっくりと草を刈り、石を積んで、カマドを作っていく。森の空き地なので、風向きの心配はない。ただ、火が燃え広がるのはよろしくないので、周りの木の葉はしっかりどけておかないといけない。火種にもなる。
周囲をあさって燃料になる枯れ枝をさがす。鎧の音が気になるけれど仕方がない。注意がちっている時ほど危険だ。
手間はかかるが、両手が塞がらない程度だけ集めて広場に戻る。
繰り返して、それなりの枝を集める。燃えやすく乾燥しているわけではないけど、生木よりはましでしょう。
枯れ葉を積んだ上に、枯れ枝を組んで屋根のようにする。枯れ葉のそばに火打ち金を近づけ、火打ち石で打つ。
何度か打ち付けて枯れ葉に火がうつったら息を吹きかけて育てる。次第に炎になり、枯れ枝に燃え移る。
少し枯れ枝が燻り、目に沁みるが仕方がない。と、レインベルトさんがもう少し太めの木を拾ってきた。その木に小刀をあてて、刃を食いこませ、簡単に石に当てて、割る。それを火にくべると炎はもっと大きくなる。
そこまで大きくなれば火が消える心配はない。顔を上げて、手ぬぐいで目の周りを拭く。これで少しは目の痛みが薄らいで、涙が止まった。
そう一息つくと、森の奥でガサっと木の葉ずれが起きた気がした。




