第34話 登坂
一行は翌日起きると、襲撃があった現場に向かった。
道中、村長からの細かい説明を受ける。殺害されたものと一緒に山へ入っていたという男もついてくる。何しろ実際の襲撃場所は、その男しか知らない。
「なにしろ騎士さま、私もこんなことは初めてでさ」
「今まで村は平和でこれといって」
「年貢もきちんと納めていますし、毎年の出仕も拒んだりしたことなんてありはしません」
・・確かこの村は去年の年貢が足りないとかなんとか、騒ぎになったんじゃなかったかな・・・とは思ったけど黙ってた。
「本当にもう、こんなことが起きるなんて神様はなんと無慈悲なことか」
「それはともかく、襲ったものはなんなのだ?」
と、騎士さまがしびれをきらして村長をただした。このままではなんの情報もないまま、襲撃者がいるかもしれない現場に着いてしまう。
「それはこちらのレインベルトが一緒にいっておりますので・・・」
と。つい、だったらあなたはなんでわざわざ付いてきたんだと思ってしまったが、口にはしなかった。
「へえ。襲ってきたのは身の丈二人分もありそうな熊でさ」
「熊か。」
部隊に緊張が走る。野生動物はどれも侮れないが、山にいる生き物で熊はとりわけ危険だ。特に執着心が強くて、一度人間を襲った熊は、繰り返し人を狙うようになるのがたちが悪い。一度被害がでたら、必ず殺さなければ、村は全滅させられる。
「襲われた途端に慌てて草むらに転んだんですが、それが幸いしたようでさ。オイゲンのやつはとっさに逃げようとして、後ろからバッサリと」
「あっしはオイゲンが食われてるのをみて腰が抜けちまい、熊があきてたちさるのを待ってから山を降りました」
「それは幸いしたな。熊は逃げる獲物を追うらしいからな。幸いわしは熊に追われたことはないが」
熊に襲われたら逃げきれないというのはリーシアも耳にしたことがある。下手をすると馬でも逃げられないほどの速度で追ってくるらしい。
「ふむ・・・」
はぁ、はぁ、と、村長さんの息が荒くなり始めた。本当になんのためについてきたんだろうな。
「長よ。山にはどうやら馬は不向きのようだ。ここから我らは下馬して徒で登るゆえ、馬どもを連れて村に連れていってはくれまいか」
さすがは騎士さま、うまく村長の自尊心を傷つけないような言い方をする。
とはいえ、騎士さまの乗る軍馬、恐慌、恐怖、陽気と白毛は見慣れない人の言うことは聞かない。長の言うことを聞くのはロバの呑気ぐらいだ。
やむなくアルノルトさんとお付きのヴォルフガントさんが村長と一緒に村に帰ることになった。リーシアはフェルディナントさんと一緒に、騎士さまの指揮下に入る。
「村に帰ったら、そのまま待機しておれ」
「はっ、村に戻ったら待機します」
戻らなかった場合にことを命令しなかったのは、必ず誰かしらは返すと言うことなんだろう。




