第31話 従士の1日
従士の朝は早い。日の出前、空が明るくなってくる頃には起き出し、館の井戸から水を汲み上げる。汲み上げるのは女性陣だが、井戸から水瓶に運ぶのは屈強な従士だ。騎士やまだ幼い従士見習いたちはまだ寝ている。
女性陣も大半はすでに館の掃除や、朝食のための火おこしを始めたりしている。
リーシアも他の従士と一緒に、なみなみと水が入った桶を担いで運ぶ。
リーシアも含めて8人の従士で運べばすぐに終わる。飲料水はもちろん、有事の際の備蓄、消火用でもある。
水運びを終えたら、自室の掃除を軽くおこない、朝日の射す中庭で木剣を木人に打ち込む。手には前世でもできたことがない、胼胝や肉刺ができている。ただこの胼胝が剣の握りにはまり込み、取り落としにくくなっている。
カルルたちの先輩従士はすでに相対練習として形稽古を始めている。リーシアと同輩の銃士はまだ、それは許されず、ひたすら固定された木人を打つ。頭部、腹、そして喉元。
これが正確にできるようにならなければ、相対練習の許可は降りない。
体が温まるころには朝食の支度ができたと声がかかる。
朝食は焼いてから数日経った固いパン。戦時に備えて必ず数日分は備蓄する。それを食べられなくなる前に食べていく。当然美味しいものではないけれど、武人の生活なんてそんなもの。見習いたちを叩き起こして、顔を洗わせてからみんなで食卓につく。
どいつも小生意気な子供たちで、いうことなんて聞きはしない。頭をこづいていうことを聞かすしかない。
硬いパンを、肉と野菜を茹でたスープでふやかし、食べていく。スープはそれでも野菜や肉の出汁がよく出ていて、元気が出る。肉や野菜のかけらが見つかると、今日一日、いい1日になる気がして気分がいい。
食後はすぐに、畑に出て付近の農民たちと作業にあたる。
昼には農民たちと採れたての果実で昼食をとる。
午後には走り込みと体術をする。騎士の体術は八極拳とはことなり、基本的には組み打ちと押さえ込み、それと投げ技になる。リーシアには当てはまらないが、鎧をつけた状態での徒手格闘なので、当て身をするのは効率が悪いとの考えだ。
こればかりは従士同士で組を作り、倒し、組み伏せ、体の自由を奪って止めを刺すことを学ぶ。止めには片手で取り回しのいい小剣、「騎士の情け」を使う。
夕方には女性陣は休み、従士だけで食事の支度をする。
これは野営の訓練も兼ねている。戦場に女性陣を連れていくわけにはいかないので、従士が野戦食を作るしかない。それができなければ、戦わずして負ける。
食事は戦力に直結するので、食材を可能な限り効率よく食事に加工する技術は戦闘技術と言ってもいい。
野菜を大きめに刻んで、肉のかけらと煮込む。味付けにはわずかばかりの塩と、村の近くでとれた香草。
みんなで食事をとった後、食器や調理具を片付けた後は寝る。
日が暮れた後は燃料代の節約に、早く眠る。
獣脂から作った燃油は高いのだ。




