第3話 金剛八式 冲錐
翌日はまったく鍛錬などできなかった。予想していたことだが、筋肉痛だ。成長痛といってもいい。無理をした全身の筋肉が悲鳴をあげ、ようやく食事と用足しができたのみ。あとは痛みをこらえて寝転がっていることしかできなかった。
さらに翌日、ようやくなんとか立ち上がることができる程度に痛みがひけば、つっぱらかる四肢を無理やりのばして站樁にはげむ。
リーシアの気持ちとしては30分程度は続けられる程度の力は欲しいが、まだまだそれどころではない。
1日、目一杯站樁を続け、翌日はまた、筋肉痛にのたうちまわる。
それを繰り返して六日目。体がこわばりはするもののついに、筋肉痛にみまわれずに起きあがることができるようになる。心のうちで快哉をさけびつつ、站樁の腰を少し落とす。
日々そうして少しずつ腰を落としながら、30日ほど続ける。
そういえば、李書文が最初に天津にでてきて弟子をとった時にもやはり、最初のひと月はひたすら站樁をさせ続けた。
これだけで「神槍」への憧れだけで入門したものを篩にかけたものだ。どちらにしても站樁の続けらないものに名をなすことなどできない。
そして、それは自分、リーシアも例外ではない。再び神槍の名を得ようというのだ。この程度でふるい落とされるわけにはいかない。
まだ、まだ、5分も立ち続けられないが、まだまだこれからだ。
しばらく、毎日站樁で立ち続けるだけの日々をすごして、いよいよ5分ほど続けられるようになったので、いよいよ冲錐に取り組む。
まっすぐ立った状態で全身の力を抜く。上半身はそのままに、両手軽く握り、左右に開いてから頭上をこえ、腰前に構える。足はそろえ、腰を落としていく。これが起式だ。
站樁と同じぐらいまで腰が落とせたら、体重を左足にかけて右足つま先を少し前に出す。左拳は脱力したまま前に突き出すと同時に右拳は腰にあてて引き、準備姿勢になる。
その体重をかけた左足を大きく踏み落とし、反発力をえて体を推進させる。右足を大きく踏み出し、体を旋転させ、右拳を突き出す。これを同時に行う。
下半身は起式から見て左に向いた騎馬式、站樁の立ち方になり、前方に突き出していた左手は腰に引かれる。
これが右冲錐だ。まだまだ下半身が弱く、突いた後にぐらつくが、最初はこんなもので我慢するしかないだろう。二打不要とまで歌われたのに、つくづく情けない。
腕の形をそのままに、体を正面に向けながら右足に体重をうつしつつ左足をわずかに右足の前に出すようにすれば、左冲錐の準備姿勢になる。体の右左を入れ替えて繰り返すのが金剛八式の一、冲錐だ。
数回繰返し、準備姿勢で体を回転させる。再び繰り返せば元の位置に戻る。
以前ならこれを何往復も繰り返すのだが、さすがに今は一往復が限界だ。基本の姿勢から足を揃え、両手のひらを大きく開いてから左右に大きく回して腰前に拳面を向き合わせて揃える。
軽く呼吸を整えて膝を伸ばし、一度の鍛錬を終えた。
今日からしばらくは沖錐を続けよう。