第29話 剣術
従士の鍛錬は剣からはじまった。実際の騎士剣を模した木剣を使うのだけれど、これが李書文の記憶にある剣と、形は似ているものの大きさも重さも、硬さも全然違うものでこれにとまどった。とにかく大きくて重く、そして硬い。
そして、木盾と同時に使うことも違う。李書文自身は武器として剣を使ったことはなく、見たことがあるだけだけど、記憶にある剣はこんなじゃなかった。もっと早く、きらびやかで見栄えがするもので、どうせ花拳繡腿の類と思っていた。
けどこの騎士の剣は違う。一撃一撃が重く、不用意に当てられたら、それだけで気絶してしまいそうだ。盾が必要な理由がよくわかる。
まず最初に学ぶのは鍛練場にたてられた木人のようなものに斜め上から切り掛かることだった。頭部を模した上端には兜のように鉄板で覆いがつけられ、兜の上から切り掛かった手応えを学べる。
それでも思い切り振り下ろせば手がとてつもなく痺れる。思い切り振り下ろさなければ、年長の従士から殴られる。リーシアは当然そんなことはないけれど、同輩の従士は何度も殴られていた。
何度も切り付けていると、手には肉刺ができ、すぐに破れて血まみれになる。槍の鍛錬でもよくあった。
血が出れば流石にそれ以上はさせられず、休めと言われた。カルルは流石に慣れていて、木人相手ではなく、同輩従士と打ち合っている。リーシアの同輩はリーシアの手を見て青ざめ、余計に腰がひけてしまった。
リーシアはまず、厨房に向かった。血が出たところは洗わないでいたら病気になってしまう。とはいえ酒ではあらわさせてもらえないだろう。湯冷しでもいいので、きれいなもので洗わないといけない。
厨房にいって、何かで手を洗わせてほしいというと、料理につかう水を使えといわれたけれども、聞けば沸かしてないという。それでは困るので、やむなく煮湯をかけてもらった。
まるで髪が逆立つほどの痛みが走るがこらえる。もったいなくて柄杓に2杯は遠慮した。というよりも、痛みに耐えられない。洗いざらした布を巻いてもらった。
そのまま鍛練場にもどると、みなが不思議な表情をした。いや、いくら休めといわれたとしても、本当に休んでいたら遅れをとるのがわかりきっている。
右手になにも握れなくても八極拳はできる。
ついでに盾になれるために、左手に盾を持ったまま八極拳をしよう。騎馬式、金剛八式、八極小架、大八極。
八極拳は拳を強く握ったりしないので、手のひらの痛みは問題ない。ただ、左右が釣り合わないのが少し閉口する。ただまあ、なんだろう。この丸盾を使った格闘が、何か考えられそうだ。
例えばそうだ、降龍。これを盾をもった手でおこなえば実戦でも使える気がしてきた。剣を振り下ろしてくるのにあわせて、盾を持って降龍を打てば、使えるんじゃないか。
そう思うと、先ほど練習していた斬り付けは、劈山掌が使えるかもしれない。




