第26話 功夫
次に仕掛けてきたのは、探馬掌。打ち下ろしてきた右掌を左手で払いながら、右にさける。と、カルルは左で頂心肘を打ってくる。なるほど、さっきの猛虎硬把山を見よう見まねでやろうというのか。
が、当然こんな頂心肘が効くわけもない。功夫が足りない。腹で受けて、「フン」と息を吐いて、弾き返す。
わかっていれば、こんなことだってできる。
カルルは再びとととっと、後ろに下がった。
「悪くないよ、カルル」と、声に出す。
届いたんだろう、カルルの目がパッと明るく輝く。いいね。と、そのまま踏み込んできた。これは予想外。拳は右か、左か。
こういう時にはこちらが先をとる。ツッと左足をすすめて左掌で目を見開いている、カルルの左肩をつく。
またもやカルルは尻餅をついた。でもすぐに立ち上がり、構える。
ヘンハオ。
「悪くないね」
「どうも」
と、初めて返事してくれた。
また前進してくる。前足として着地した左足で震脚して、右踵を蹴り上げてきた。これはまた!直進してきたから左に避けたが、偶然とはいえ助かった。
完全に後ろを取ったので、そのまま貼山靠を当てる。怪我をしないように。
おじさんたちはそれほど手加減する余裕はなかったけど、カルルはまるで相対練習のようだ。拳がまっすぐで、リーシアを殺そうというのではなく、あくまでも自分の腕を見せようとしている。これがいい。まるでカルルが「これだけ練習したよ!みてみて!」と言ってるようで好ましい。
ただ少し、自分で工夫しすぎたのか、少し風格が変わってしまっているところがある。ごく僅かな違いだけれど、そこは後で直さなくては。
今度は拳を振って横打。今度はさがって、カルルの工夫を見てみよう。と、右横打の間から左拳を突いてきた。右掌は上にはねあげ、架打になる。ここは右下腕で受けてそらす。
すると今度は右足をすすめて、振り上げていた右腕を打ち下ろしてきた。ヘンハオだ。
前足にしていた右足を右に開いて体の中心をずらして避け、肩で受ける。
頭を狙ってきた打撃は肩で受けることで力の出しどころがずれて、肩の僅かな動きだけで勁を化することができる。
勁を化すと、勢いの余ったカルルは脇を通り抜けてタタラを踏む。こちらも追撃はせずに、体勢を立て直す。
カルルの息が上がりかけている。リーシアにはまだまだ余裕があるけれど、カルルは次ぐらいで限界だろう。




