第24話 猛虎硬爬山
外門から頂心肘を打ち込み、体勢を崩して倒れた鎧のおじさんに対して、追撃するのにいくつかやりようがある。
今回は手っ取り早く、後ろの左足で震脚することにした。李書文の頃には倒れた相手に追撃するなんて、とても考えもしないことだったけど、この鎧のおじさんはそんなことを言っていられない。
頂心肘でも倒れた衝撃でも傷を負わせた保証がない。痛み程度は確実に与えておかなくてはいけない。
手っ取り早くおじさんの左足を踏みつけにしようとするが、ずしんと足が石畳を踏みしめたと思った時には頭を右脚が掠めていた。
体の反応で飛び退ったから大事には至らなかったものの、もう少し深く当たっていたら致命傷だった。
振り回した足をバネにして、鎧のおじさんがスッと立ち上がる。なんとも器用な。大きな動きは隙を作りがちだけれど、おじさんは速さで隙を埋めている。
こめかみから汗が伝ったので、目に入らないように左手の甲で拭えば血だった。この攻防一体の鎧はまずい。
甲の血をペロリとなめ取って、気を引き締める。
これまでに一人で鍛えてきた技を遺憾なく発揮できることに、神槍李の記憶がニタニタしてる。多分、おんなじ表情を自分もしてるんだなーと、リーシアは片隅で思うけれども、しょうがない。
おじさんの息が少し荒い。避けに徹したこちらも大概だけど、蹴り技を連続させるのは体力の消耗が大きい。書文が動きの大きな地紹拳を評価しないのもこのせいだ。動きの大きな、動きの速い武術は体力の消耗が大きくて、戦い続けることに向かない。
ヒュッと油断をしそうな頃を見計らっておじさんの尖ったつま先が飛んでくる。まるで鞭のように足を使う。警戒していたけれども、先ほどのような置き技はない。
これを機会と見るか、誘いとみるか。
「生きてた頃は、これでも二打不要とまで謳われたものなんだがなぁ」とは書文の記憶。
やかましい。これからなってやるよ、とリーシアは思う。
まずは蹴り足が着きそうになった刹那を見計らって少しだけ体を進ませてみる。おじさんはそこに反応してすぐに蹴りが飛んでくる。
見越していたことなのですぐに避けられる。やっぱり。
また脚が着く頃を見計らって体を前に揺らす。今度も蹴りは飛んできたけれども、先ほどよりは速さが鈍ってる。
今度は戻り切る前に前進して反応し始める前に、右巴子拳を腹の上から打ち込む。
やっぱりと言うか、胴体にも鎧をつけてる。だがそのまま打ち込んだ右手を折り込んで、右頂心肘を打ち込む。服装からわかってたけれども、胴鎧の下に草摺はない。鼠蹊部を肘で打ち抜く。
ゴキリと肘先に関節が外れる嫌な手応えがあり、10歩ほど離れた場所におじさんをすっ飛ばした。
鎧おじさんの意識はあるけど、股関節が外れたら流石に立ち上がれない。
そうだろう、そうだろう。
騎士様はまだ顔を真っ赤にして唸ってる・・・。これ以上は砦の戦力が下がりすぎちゃうと思うんだけど。
と、「これでも二打不要と謳われたもんだがなぁ」とは李書文の記憶だ。




