第21話 鶴歩推山
みんなの前でひざまずくと、
「この子が今年の出仕者か」
と、立派そうな(偉そうな)おじさんが言ったので、
「はい、リーシアと言います」
と、ジョールグさんが答えた。
リーシアは事前に聞いていたので黙ってうつむいたまま、さらに頭を下げた。
「女子とは珍しいな」
「は、これでも村の祭りで、初めて出場した年から連続して3回優勝しております」
「なるほど、こう見えても大人顔負けの膂力の持ち主というわけか」
「は」
「さてリーシア、お前は騎士になろうと出仕したということだが、お前は力自慢だけなのか。
その体の大きさでは、多少の力自慢程度で騎士になるのはちと荷が重いように思うが」
「顔を上げて答えなさい、リーシア」
「は」
という言葉を聞いたので、リーシアは顔を上げて、目の前の人をみあげた。この人が騎士様なのか。よく鍛えられていて、なかなか強そうな人ではある。
「はい。力は多少はありますが、私は力任せの戦いよりはどちらかといえば、技を使って戦う方が得意です。いずれは槍をもって身を立てたいと思っています」
「ハッ。なるほど。力よりは技か。素手の技では、戦さの役には立たんぞ」
「私は、素手で人を打ち倒すことができます」
「・・・」
いけない、少し癇に障ったらしい。
少し下を見た騎士様が顔を上げると、とてもすごく嫌な笑顔をしていた。
ちょっと腹をくくっておかないといけないかな。
「そうか、それではその腕前を少し、見せてもらわなくちゃいけないなぁ」
うん、なんだかとってもいやーな笑顔だ。きもち悪い。
「はい、おっしゃる通りに」
「よし、それではハルト。武器を使わずに相手をしてみせろ」
「は。」
と、騎士様よりちょっとごっついおじさんが2歩前に出てきた。
なんとなく、騎士様の前で御前試合でもするような形になった。
「それでは失礼を致します」
「うむ」
村の人たちはもう後ろに下がって、馬車のそばにいる。
少し騎士様から離れ、飛ばしてしまっても巻き添えにならないようにした。
ハルトさんもそれに合わせて移動する。
さて。
「いいだろう、はじめろ」
という声がかかる。たいていはこういう場合、上級者を自認している側からは仕掛けてこない。ゆったりと両手を脇にたらし、構えるでもなく身構えている。
強い。
とはいえ、ためらっていてもどうにもならないので、リーシアも構えることなく近づく。ハルトさんが少し嘲ったのがわかった。
間合いに入ったのにまだ仕掛けてこないのは余裕のつもりなんだろう。
右掌を前に差し出すと、ハルトさんはリーシアの左を明らかに警戒する。
『かかった』
そのまま右掌をハルトさんの胸に当てて、打撃する。
「フン!」
このために歩幅もきちんと合わせておいた。踏み込んでいる右足の震脚で打撃の威力を増す。
一応は胸骨までは折ってはいないはずだけど。
ハルトさんは大きく飛ばされ、2、3歩ぐらい下がったところに尻餅をついた。石畳に頭を打ったりしなかったのは助かった。




