第2話 站樁
翌日、リーシアは起きるとすぐ、体調を軽く確かめて、鍛錬を始めることにした。
とは言っても、家の中は狭く、体を動かす隙間もないので、外に出てからだ。庭のようなものはないが、塀もろくにないので体を動かすじゃまにはならない。農村なので、隣の家までは1公里はある。
まずは基本の衝錐をやってみようとしたが、すぐに愕然とすることになった。
李書文の記憶にある、八極拳の基本動作が全くできない。
八極拳の動作には段階に分けていくつかあって、最初は基本の鍛錬として「金剛八式」という8種類の動作を繰り返す単式練習を学ぶ。
ところがその最初の動作、冲錐がそもそもできない。
冲錐は片足で立って腰を落とし、立ち足と逆の足を踏み込みつつ突きを放つ動作なのだが、その準備姿勢の段階でそもそも片足立ちができなかったのだ。
筋力が圧倒的に不足していて、片足で立っただけでグラグラしてしまい、踏み込むどころじゃない。
体を鍛えるにしても、金剛八式ではダメだ。
早々に拳を練ることをあきらめ、プルプル痙攣する腿の筋肉をほぐす。自分で思っていたよりも、自分の体はぜい弱だった。
腿をよくもみ、痙攣がまあまあ治まってきたと思ったら、今度はほぐしていた手のひらが疲れてきた。この体はとことんぜい弱だ。
地べたにへたり込み、今度は手のひらをほぐす。
ろくに体も鍛えていないのに、もう太陽はかなり高くなってしまっている。
これでは鍛える間もなく1日が終わってしまいそうだ。
気を取り直して冲錐をあきらめ、站樁をすることにした。足先をそろえてから、肩幅に開く。
背を丸めないように気をつけながら、両手を軽く握った拳にして前に出し、腰を落としていく。
が、やはり全盛期のようには腰を落とせなかった。最適な高さは、腰を膝までの高さに落とすのだが、まだ無理だった。申し訳程度に沈めた程度でもう、腿がプルプルし出している。
本来ならこのまま20分でも30分でも立って気を練るところなのだがこの体はそれを許さない。
30秒もたてば限界をむかえてまたへたり込んでしまった。
ふたたび腿をほぐす。あらためて自分の腿の柔らかさにあきれ果てる。力を入れてみても、ぜんぜん硬さがない。こんなことで「神槍」にたどり着けるものやらわかったものではない。なんとも情けない。
情けなくて涙がでる。
ポロポロ、ポロポロこぼれ落ちる涙をぬぐい、リーシアはふたたび立つ。
こうしてリーシアはその日、立っている時間の方が短かったとはいえ、日がくれるまで站樁をしたのだった。