第19話 練功
翌年は、練功も進み、自分自身でもずいぶん深まった実感があった。今年はいよいよ騎士様への出仕になるので、全力の掌打でなら打ち殺せる程度にはなっておきたい。
打撃を当てる立木の幹はすっかり皮がはげて、白い木肌が見えるようになってしまった。掌をあてても肩や背中、脇をあてても枝葉がゆさゆさ音をたてて揺れる。
李書文の全盛期ほどではないにしても、リーシアとしては十分満足すべき功夫に思える。
カルルのいない練功は寂しくてやっぱりつまらない。
ひたすら拳を練る。
勁を沈め、震脚し、うつ。歩を進めて、勁を沈め、震脚し、うつ。
繰り返す。
冲錐、川掌、降龍。
派手ではないし、正直このあたりの招式はいくらみられても困らない。それでいて、功夫を高めるのには絶大な威力がある。
「ようリーシア、毎日精がでるなー」と、農作業にでかけ、かえってくるおじさんたち、おばさんたちが声をかけてくれる。
お祭りですっかりリーシアの腕っ節は村中に知れわたった。
もうまえのようにからんでくる男子もいない。煩わしさはないけれど、無視されてるみたいでそれはそれでちょっと寂しい。
そう言えばもうずいぶん長いこと、槍をしごいていないと思う。
それでもうちにある農具では槍のかわりにはならない。
李書文の得意とし、神槍の代名詞ともなった六合大槍では李書文の身長の倍ほどもある槍を使う。もちろんそれだけならかわりになる木材はあるが、中国の槍は柔らかい。
柳の木をつかい、しならせる。そして八極拳の六合大槍にはそのしなやかさが欠かせない。
そして、村の農具にあれほど柔らかい木はないし、柳の木は村にも生えてない。
おそらくこの大槍を手に入れることも大事だ。
リーシアを神槍と呼ばせるのに、欠かせない。
そうだ、リーシアは神槍になるんだ。
そのためにはまず、今年もお祭りで勝たなきゃいけない。




