第2話 旅の商人
翌朝は、全員で体をほぐしてから、イーダは站樁、他のみんなはそれぞれの套路をこなして鍛錬する。金剛八式、八極小架、大八極。
師匠、フィルさん、そしてリーシアがその後、魔道の練習をする。日が昇って暖かくなってきた頃にキャンプ地を出立する。
普通の一隊ならもっと早くに出立するのだろうけれど、魔道にしても武術にしても、鍛錬を欠かせば腕なんかすぐに落ちる。毎日の鍛錬を欠かすわけにはいかない。正直に言えば少し、足の怠さはあるけれど、このぐらいの負荷は必要だろう。
カルルと二人で旅していた頃と違って、キューちゃんがいるのも大きい。なにしろ皆が鍛錬している間に一っ飛び飛んで道行の偵察をすませてくれる。街道沿いにある怪しげな小屋、待ち伏せをしている男たち、うさぎを狙う狩人、キノコを集める村人まであらかじめ知ることができる。
今日はまだ、誰とも遭遇することはない。昼に小休止をしてから、午後も早めにキャンプを張る。これでおおよそ次の村まで半分の行程を消化したことになる。
二晩目、キャンプを設営しているうちに、行き先の方から行商人の一行がキャンプ地に入ってくる。おそらくレルに向かう商人だろう。一行を代表して、挨拶に行く。
「こんばんは。商人の方ですか。私たちは騎士の一行です。こんばん一晩、ご一緒いたしますが、よろしくお願いいたします」
ワゴンからも商人らしい男が降りてきて土下座でもしかねない挨拶を始めるが、そこは押し止める。
「いえいえ、こちらは騎士といえども土地なしですので、そこまでご丁寧に応対していただくことはございません。せっかく同じ場所で泊まるわけですから、ご挨拶でもと思っただけですので」
さらに続ける。
「こちらが武装していても、野盗の類でないとご理解いただけさえすれば、それでいいので」
挨拶もそこそこに、自分のワゴンに帰り、幌布を張って火を熾す。近くの川から水を汲み上げ、濾過器に注ぐ。こうしたキャンプ地は川などの近くに発達する。濾過した水も数日経つと飲めなくなるが、こうして毎日汲み上げることで飲料水自体には事欠かない。
あとは食料だが、まだレルから二日。十分にある。
今晩はゆっくり休もう。
寝る前にも十分に体をほぐして、站樁をするだけのイーダ以外はみんなで小架をこなしてから床につく。
最初の村まで、あと二日。




