第1話 開門弟子
思っていたよりも頑丈な作りの西門を出、一行は一路、ユーダリル領に向かって旅立つ。先頭に立つのはロバのロバの手綱を取る力強きものと呼ばれていたオルクス、スルーズ。イーダが次に続き、ロバが引く馬車にはフィルさんとベル師匠。
リーシア自身はキューちゃんと共に馬車の左右を歩く。
「騎士様、騎士様が馬車に乗らないで歩くのはなんでですか?騎士様が一番偉いんですよね?」と聞くのはイーダ。
これは難しい質問だ。
「ううん。そうだね、体を鍛えておかないといけないから、かな。
「ザオベル師匠、フィレベルクさんと違って、私とスルーズは騎士なんだよ。イーダ、君もだ。騎士は戦場で戦って、敵を倒すのが役目だ。そんな棋士が普段から車で移動していて、足腰を弱くしてしまうわけにはいかない」
「でも・・・。」
「特に私は毎日の鍛錬を大事だと考えている。日々の鍛錬を怠るものは、それだけ強さが伸びない、強くなれないというのが私の考えだ。私は戦場で敵に遅れをとりたくはないんだ。当然イーダ、従士見習いとなったお前にも同じようになってもらう。いいね」
「はい・・・」
「今、心の底から賛成してもしなくてもいい。どちらにしてもイーダ、君には厳しい鍛錬をこなしてもらうから。厳しい鍛錬を経て君は、私の開門弟子になるんだ」
「開門弟子?」
「私を師と仰ぐ一門の最初の弟子、という意味だ」
「おいおい、それじゃ私たちがお前の教えを受けていないみたいじゃないか」というのはベル師匠。
「師匠、もちろん師匠もそしてカルルも私が身につけた技術を隠すことなく伝えています。でも、師匠やフィルさんには弟子にするほど厳しい鍛錬は課せませんし、カルルに至っては私が教えたというよりは、私とともに育ったいわば、弟弟子ですよ。
「私はカルルに教えつつ、自分も同じ鍛錬を自らに課しました。これではカルルを弟子とはいえません」
「スルーズは、確かに八極拳を教えていますが、元々は形意拳の拳士ですし、私の従士となったわけでもないんです。だから、イーダこそが私の初めての徒弟になるんです」
「なるほどね。これはイーダ、責任重大だね」
「師匠、イーダに変な圧をかけないでください。
「イーダ、あまり難しく考えなくてもいいよ。君は君で、立派な騎士になることを目指すんだ。いいね」
そんな話をつらつらしながら一日目の旅程を終えて、宿営地に着く。こうした宿営地は旅程の関係からだいたい街道の同じ位置に野宿が繰り返されることで形成されていくが、逆に野盗の類から狙われることも多い場所だとも言える。
当然普通の行商人ならば野盗の類への警戒は多大なものになるけれど、流石にリーシア一行を襲う野盗がいたら間抜けだろう。
それでも流石に無警戒というわけにもいかないので、リーシアとフィルさん、そしてスルーズの三人で交代して夜警をおこなった。
最初の村まではまだ三日ほどの行程がある。おそらく二日目か、三日目の晩あたりが要警戒だ。




