第43話 レルでの買い物
結局、その日は皆で大いに盛り上がり、宿に泊まった。まあ、フランクが奥方に散々に怒られているのであろう女性の怒鳴り声が寝入ってから階下から聞こえてきたけれども、そこに関しては一切触れないでいよう。男性の面子は潰さないでいる方がみんなが平和でいられるから。
翌朝、改めてきちんと旅支度を整える。昨日はレルに着いていきなり謁見を求められ、あれやこれやという間に男たちに囲まれて連続散打をさせられた疲れが抜け切ったとは言えないが、一晩ゆっくりできたのは助かる。
朝になって見に行った、厩舎のキューちゃん、ロバも、少しばかり元気が出ているように見える。
「すぐに旅立つのもいいけれど、せっかくの大都市だ。ワゴンの手入れや食料、そのほか、物資を足しておいた方がいいんじゃないでしょうか」
とはフィルさん。
「王様からお金もいただいたでしょう?」と師匠が囁く。
「わかりました。少し、ゆっくりしましょう」
宿にとって返してフランクに、数日滞在することを相談する。
女将さんが笑顔で頷いてくれたので、二日か三日、泊まれることになった。
フィルさんの進言で真っ先に向かったのが、車鍛治だった。車体のフレームはもちろん、側板、底板、御者台などなど、徹底的に点検をし、左後ろの車輪を交換してもらった。可動部に油を差してもらい、少しばかりのグリースを分けてもらう。
鍛冶屋に「油が切れてすり減ってから交換するより、油を切らさずに長持ちさせた方が安上がりだ」と怒鳴られたのはフィルさんの仕事になる。
いくら熟練の鍛冶屋といっても、騎士や魔道士を怒鳴りつけるわけにもいかず、オルクスに至っては怒鳴りようもないから。
さらに市場へ回って、保存食を買い足していく。堅パン、干し肉、漬物。ワゴンにかぶせる幌には油を塗り直してもらっておく。馬具の革にも油を塗って、柔らかくしておく。
さらに研師を探し、ソード、ナイフなどの研ぎ直しを頼んでおく。一応防具の方も見てもらうが、こちらの方は特に現状の手入れでいいという言質を得た。
衣類や寝具の洗濯、その他布類の洗濯もしっかり行なっておく。これからまたしばらく旅になるので衣類の匂いが取れるのはありがたい。
ミュルクヴィズではほとんど市場で買い物などをすることなどなかったので、師匠と二人で散々あちこちの店に立ち寄っては二人の従者を辟易とさせたが、この辺りはもう主従関係として割り切る。
宿に戻って食料品類の荷をまたまとめ直す。
正直、思い切り買い物をして、かなり気分がスッキリした。たまにこういうことをするのも、心の安寧に役に立つ。レル二晩目、随分と寝入りのいい寝床となった。




