第42話 宴会
結局のところ、日が傾き始めるまでリーシアは男たちの相手を務め、さながら李書文が天津時代に公園で教授していたような武術会の様相を呈した。男たちはもちろん足腰が立たなくなるまで疲労したけれど、リーシアもまた、ずいぶん疲れることになった。一人当たりほとんど一手で相手をしたにも関わらず、倒されてはまた殴りかかり、疲れが溜まれば休んでまた殴りかかってくるのでこんな有り様となってしまった。
頭では理解していたつもりではあるけれども、やはり実戦を想定すると体の操作が大変な華拳繡腿の類は使えないと再認識した。いつ戦いが終わるともわからぬ実戦で、そうそう見栄えの良い技など使ってはいられぬ。最小限の動きで敵兵を無力化せねば、その対価は自分の命になる。飛んだり跳ねたりする間に半歩進んで倒すのがやっぱり理想だ。
流石に息が上がって、皆に声をかける。
「はぁ、はぁ。これで満足か」
「うう・・・」
「く、くそ・・・」
「では、行きましょう、師匠」
というが、肝心の師匠が
「そうはいうけどリーシア、今から城を出ていくのは現実的ではないよ。今日はもう宿を取ろうよ」
とのたまう。
「わかった、私もその方がいいかもだ」
「宿なら、フランクの店がいい」と男たちの一人が別の男を指差した。
指さされた男はやっとこ立ち上がり、「ああ、泊まっていけ。宿代は迷惑料だ、いらん」という。これに師匠が
「いいじゃないか」と言えば、もうリーシアに否はない。
「やっかいになろう」
「まあ、そうだな、みんなでいっぱいやって、水に流そう」
という話になる。
皆でなんとなく肩を組んで馬車、グリフォン、オルクスを連れて宿に向かう。
小路を辿って宿につけば、フランクが3匹のカエルが描かれた看板の扉を開けて「入んな」という。中に入れば普通の宿屋と同じ、一階は飲み屋になっている。四人掛けのテーブルが三つ、四つあり、まだ客席は誰もいない。
奥では奥方らしい女性がカンカンに怒っている。
「あんた!今までどこほっつきあるっていたの!」と帰るなりフランクが頭から怒鳴りつけられる。
「う、うるせぇ!男にゃ付き合いってもんがあるんだ!」とは怒鳴り返すが、どうみても開き直っているようにしか見えない。
「すまないな、女将、おじゃまなようなら私たちは失礼するのだが」と、リーシアが騎士然と声をかけると流石に女将も
「い、いえ、いくらなんでも騎士様をおいだすなんて、ねえ?オホホホ」と誤魔化す。
「大将、流石に申し訳ないから、これはとっておいてくれ」と、相場よりも色をつけてコインを握らせる。
「す、すまねえ」
流石にこれ以上フランクを気まずくさせるのも申し訳ない。
「さあみんな、座ってくれ。遠慮なくやろう」と声をかける。
その夜はみんなで大いに盛り上がることになった。
 




