第40話 襲撃
王城を出るとすぐに、数人の男に囲まれた。
「おい!お前!お前はコルムを侵略した国のグリフォン騎士だな!」
ああ、これはあれか。戦争で知り合いとか家族とかの恨みがあるっていうことか。
「確かにコルムを攻略した国のグリフォン騎士ではあったけど、もう国は出ていて...」
「うるさい!今騎士を辞めていようが、息子の仇なのは一緒だろ!」
まるで聞く耳を持ってはもらえなかった。
「私があなたの息子を殺したというのは誰が言った?」
「私が殺したという根拠はなんだ?」
と反論を試みる。
「うるさい!」といきなり剣を抜いて斬りかかってこられた。
そんなことをされても即座に対応してしまい、振りかぶった剣を持つ手を左手で押さえて右の掌根で顎を突いてしまった。咄嗟に動いてしまったけれども形の上では弓歩架打になる。
「あ」
こればかりは騎士としての立ち居振る舞いによるものなので、大きな怪我は負っていないだろうから許されたいものだ。
「いやしくも、騎士身分の私に対して随分な乱暴だな」
顎を下から撃ち抜かれた男は地面にのけぞって、気絶したように見える。リーシアは他の周りを囲む男たちを見て、
「君たちはまず相手のことを確かめるということをしないのか?もし私が人違いで仇でもなんでもなかったら、今度は君たちが仇として狙われるんだぞ」
と指摘する。
「もっとも私もそうそう武芸で遅れをとるつもりはないけれどな」
「そもそも、彼が私を仇と狙う彼の息子というのはどういう人なのだ」
と、周りの人に聞く。
「お、俺の兄貴はコルムの守備兵で、街を守っていた時に攻め込まれたウェスタヤルトの軍隊に殺されたんだ!」
「俺の息子もそうだ!」
と、男たちが口々に叫ぶ。ここでもか、とリーシアは思わざるを得なかった。
「コルムの市街戦を戦ったのは私じゃない。もう一人のグリフォン騎士、カルル・リースブルクだ」
「な・・・!」
「私がコルムの城門を潜ったのはコルムがウェスタヤルトの支配下に入ってからだ」
「こ、こいつ!責任逃れを!グリフォン騎士なんてそんなにたくさんいるわけがないだろう!」と別の男が叫ぶ。
「そうだそうだ!」と同調する人だかりがリーシアたちを囲む。
「いるんだよ、それが」というのはザオベル師匠。
「私は塔の魔女とも言われるものだが、確かにこの騎士リーシアが討伐したグリフォンには子供が2羽いた。正確に言えば卵が2個だが、この2羽をそれぞれ乗騎にしたのがここにいるリーシアとカルルだ。つまり、グリフォン騎士は二人いるし、コルムの市街戦を戦ったのはリーシアではなくもう一人のカルルだ」
「これについては文官として従軍した私が証言しよう」というのはフィルさん。「確かにコルムを陥落させた時に参戦していたグリフォン騎士はこちらのリーシアではなく、もう一人のカルルです」
「な!塔の魔女だと!あの、伝説の!?」と響めきが人だかりを走る。
「師匠の名前はすごいね」とリーシアはつい、感心する。
「なにしろドラゴン退治をおこなった魔女だもんね」
「お、おお・・・」
「い、いやそれは・・・」ベル師匠が口ごもるが、人だかりはそこまで気にしてはくれない。
「で、どうなんだろう?私が君たちの家族の仇じゃないってことは分かってもらえただろうか?」
「で、でもよ・・・」と別の男が言いにくそうに口を開く。
 




