第38話 レルムの王
検問を通過して、農地を進むと流石にグリフォンが農夫たちの注目を浴びる。ロバに引かせたワゴンに荷物を積み、それに数人の男女、グリフォンが付き従う一行は流石に異様だ。もちろんそんな一行に声をかけたりするものなどなく、一行はすぐに城門に達した。
レルの城門はミュルクヴィズとは異なり門衛はおらず、解放されている。まあ、有事の際にはしっかり閉ざされるのだろうということは推測されるけれど。記憶にあるミュルクヴィズの城門よりもやや大きいレルの城門を見上げながら、城壁を潜っていく。
「大きな城門ですね、ベル師匠」
「そうだねえ。私も都市といえばミュルクヴィズかウェスタヤルトぐらいしか知らないから、興味は尽きないね。これほど大きな都市だと、一体どれぐらいの民衆がいるんだろうね」
通りには大勢の人が行き交い、その混雑具合はミュルクヴィズよりも多く思えた。それでも流石にグリフォンを連れた集団は目立ち、見た人からは距離を置かれる。まるで人並みをかき分けるように一行が進む。見慣れぬ文字で書かれた看板、注意深く聞かなければわからない会話、いろいろ真新しい。街並みは少しカラフルで異国情緒漂う。
これからの旅を続けるための許可をとりに、街の中心に向かっていく。段々と人が混んできて、ぶつかったりする人も出てくるけれども、すぐにグリフォンに驚いて遠ざかっていく。
街の中央広場では、市がひらかれていて、雑踏が頂点に達する。これほどの人間を現世では見たことがないリーシアにとってはドキドキすることだった。前世の記憶では天津での経験や軍閥での指導もあったので、それに比べると大したことはない。
市場を抜けて、王城に向かおうとすると通りの両脇から兵士が出てきて止められる。
「すみません。街を通過する許可をいただきたく、王にまかり越しました。もちろん、許可さえいただけるのであれば、王にお会いできなくても結構です」
身分としては多分、兵士たちよりはリーシアのほうが上だろうが、余計な波風は立てたくない。下手に出ておいて損はない。ある意味では敵地なので、いくらなんでも一党だけで立ち向かうのは愚かすぎる。
受けた兵士が王城に走っていき、一行はしばらく待たされた。
しばらく待たされ、
「王がお会いになるそうです。こちらへ」
と先導されることになる。
堀にかけられた橋を渡り、城門をぬけ、内庭に入っていく。
謁見の間に入る前に、ロバとキューちゃんの手綱、全員の武装を全て預ける。
「キューちゃん、しばらく大人しくこの人たちの言うことを聞いててね」
丸腰となった一行は、広間に通された。向かいには壇が設けられていて玉座らしき椅子がある。四人はそこで跪き、王の出座を待つ。
「レルム王のお成りである」兵士の声が響き、壇上を誰かが歩き、玉座に着いた気配がする。
「面をあげよ」という、壮年男性の声がするので、リーシアはそこで顔を上げる。
「立つがよい」続けて促されるので、リーシアはたった。
壇上の玉座につくのは、立派な髭をたくわえ、王笏・王冠を身につけたまさに「王らしい風体の男」であった。壇の下には近衛らしい騎士が10人近く並び、護侍していた。
これがレルムの王か。残念ながらミュルクヴィズ王は威圧感というか、威厳の面で負けている。ギュンター公であれば、あるいはとは思った。




