第37話 レル入城
二人の物語を聞いて、リーシアはまあ、なんというか、英雄譚などといってもこんなものかと思わざるを得なかった。
明日の出立は早い。毛布を頭まで被って、眠りについた。
翌朝、陽の光が差し掛ける中、一行はむくむくと起き出して支度を整えていく。あと何日かはしないと最寄りの街にも辿り着けない。今日もまた、山の道往だ。
数日後、ようやく次の街が見えてくる。街は城壁に囲まれ、全容は知れないが大きな街であろうと思われる。
周囲には農地が広がり、大勢の人口が養えるだろうと思われる。近づく前に一行は街道脇から出てきた兵士たちに呼び止められた。
「止まれ!何者だ!」と誰何される。
「旅の騎士とその一行です」と答える。
「こちらの方には街はもうコルムぐらいしかないはずだ。コルムから騎士が来るなど、怪しすぎる」
兵士の言い分があまりにも尤も過ぎて、リーシアには反論の余地もない。何よりもリーシア自身の放逐ミュルクヴィズ騎士という身分自体が証明するものもない怪しさ十分の身分だ。もちろん、この程度の兵士を力づくで突破するのは簡単だけれども、そんなことをしてもいいことなど何もない。
「騎士身分にはミュルクヴィズで叙任され、その証拠はこちらの剣になります。ああそうだ、私はグリフォンライダーです。それなら少しは知られているのでは?」
「グ、グリフォン!?」と明らかな狼狽が守備兵たちに広がる。
「おいで!」と叫んでキューちゃんを呼ぶ。不用意に警戒されないように隠れていたキューちゃんがバサっと飛んできてそばに着地する。グリフォンの鷲と考えたとしてもあまりにも大きな影が地面に落ちて、人が二人、手を広げたほども幅がある翼幅が広がるとまさに威容というのに相応しい。
「あ、あんたがあのグリフォン乗り!?」
「あの、かどうかは知らないけど、私がグリフォン乗りです。あ、でも戦争をしにきたんじゃないから、そんなに警戒しなくても結構です」
「コルムは確か、グリフォンによって攻め落とされたって・・・。グリフォンが空から雷を降らせたとか炎を吐いたとか・・・」
「グルルゥ・・・」
流石の風評被害に、キューちゃんが唸る。
「わ、わかった。攻撃の意図はないわけだな。くれぐれも街の中では乱暴狼藉を働かないように」
「誰かに挑発されて力を振るわなければいけなくなった場合は?」
「うむ、確かに余所者がくれば、そういうことはあるだろうが、まあ、死者だの大怪我だのが出なければ良いだろう」
「わかりました、心します」
「ちなみにそちらは?」
「ええ、塔の魔道士ザオベルとその従者フィレベルク」
「それからこちらがオルクスの力強きもの」
「よろしく」
「お、オルクス!?オルクスなんて連れてあんた、大丈夫なのか!?」
「ええ、オルクスとは村単位で交流がありまして・・・」
「お、驚いたな・・・、まあ、グリフォン乗りが問題ないっていうんだから大丈夫だろう。それに伝説の魔道士とか一体何者なんだあんた・・・」
「いったでしょう、グリフォン乗りの騎士だって」




