第17話 決着/三尖相照
リーシアは拳の先、つま先、視線の中心を垂直に揃える姿勢を崩さない。これを「三尖相照」という。
フィオンさんは眉は動かしたけれども、まだ攻めてはこなかった。
リーシアの感覚からすれば、そろそろフィオンさんの距離になるのだが、フィオンさんはまだリーシアの距離じゃない。この距離ばかりはどうにもならない。
李書文も体格には恵まれなかったので、互いの距離には工夫した。単純に打ち合えば負ける。こちらの手がとどかない所から、たいていの相手はこちらに攻撃を当てることができるから。
そのために六大開はあるし、歩法もあるのだがそれは他の武術家も同じこと。同じことをしていたら勝てない。
そのために、隙をみせて打ち込ませ、そこを迎撃するようにしているのだが、フィオンさんはそこに乗ってこない。
さらに距離を詰め、フィオンさんの距離にはいる。
はいったのに動かない。
これは難しい。
冬だというのに、背中を汗が伝う。口から息を吐いた。
これで動いた。ガッと一気に距離をつめてつかみかかってくる。
流石の迫力はつい下がりたくなるものだけれど、さらに前に出る。
フィオンさんの振り下ろした両腕がつかまえようとするのを、前進することで外す。
前脚で震脚し、肩と側頭を腹にあてる。
「ガハッ!」
フィオンさんの息が一気に吐き出される。
腕が股間に当たらないように、体にそわせたのはご愛嬌だと思ってほしい。
打撃の威力は打ち倒すのに十分で、フィオンさんが尻餅をついた。
「そこまで!」
という、おじさんの声が聞こえた。
フィオンさんは尻餅をついたまま、虚な目で空を見ている。
よかった。まだ生きてるようだ。息を吐いて、開いたままだった口が閉じた。
空を見上げていたフィオンさんの視線が下がって、リーシアを見た。
その目にあるのはおどろきと、畏怖。
焦点があって、リーシアと目が合うと目の底に光が宿った。仄暗い、闇の炎。戦う前にフィオンさんの目にあったものが再び宿った。
苦しそうに、眉間にしわをよせて立ち上がると、少しよろけながら、村に帰っていく。
リーシアは神槍の記憶にある作法にのっとり、右手の拳を左掌でつつんで、おじさんに頭を下げた。
「ありがとうございます」
冬籠もりに入る前に、フィオンさんが村からいなくなったことを父さまから聞いた。




