第34話 ドラゴン討伐
「武器や防具に魔導を付与するのは難しいんだがな・・・」とぼやく師匠に、
「難しいってことは不可能ではないってことですか、師匠!」とリーシアが食いついた。
まあ、その通りではあるんですが、あくまでもこれは物語の中の魔導士ザオベルですから。
「ああ、そうだった、そうだった。すまんすまん」
盾を掲げて龍の息吹を避けながら、勇者は龍の注意を自分に引き付けて、魔導士が攻撃できる機会を窺いました。
「龍の息吹って、避けてればなんとかなるもの?師匠」
「無理だ。火事でもそうだけれど、燃えるものは空気を殺す。死んでしまった空気を吸っても、人間を含む生き物は生きていけない。だから龍の息吹を浴びせられたら、炎は避けられても人は生きていけなくなるのさ」
・リーシアはそれを「気の流れ、生気、死気」と理解した。気には陰陽の流れを考えることができるが、陰でも陽でも偏るのはよくない。そういうことなのか、と。
なるほどそうなんですね。でも物語ではその程度で勇者が戦えなくなることはありません。実際には耐えられない傷や熱でも、戦い続けるのが物語です。槍の勇者は炎を凌ぎつつ、罠を仕掛けた場所に龍を誘導していきます。
「おお、罠か。どんな罠かのう。触れたら体が腐る呪いか、それとも高熱で焼き尽くされる魔道か」
「師匠、師匠・・・。怖すぎます」
すみません、師匠。槍の勇者たちが仕掛けた罠はもっと直接的なもので、なんと、頭上から岩を落とすというものでした。
「岩!?岩だと!勇者たちはどうやってその高さまで岩を持ち上げたというのだ!」
「私、そんな作業やらされるの嫌です」
「うぅむ・・・」
「ピィ・・・」
お気持ちはわかります。子供の頃は私もすごく盛り上がったんですけれども、長じてみると、ずいぶん無理のある罠だったなと。それでもまあ、狭いところに追い込んで仕掛ける罠ですので、吟遊詩人も頑張って考えたのでしょうね。
それでもまあ、巨大な龍を倒すだけの力がある岩をその高さを持ち上げるのは無理でしょう。
とは言え、龍の頭上に仕掛けておいた大量の岩石が、魔導士の魔法によって龍の頭上に降り注ぎ、龍は身動きが取れなくなり、最終的に勇者によって止めを刺されました。
勇者が王様に龍退治の報告をおこない、王は魔導士ザオベルに塔を与え、ザオベルは「塔の魔導士」と呼ばれるようになりました。
これが私が子供の頃から親しんだ、塔の魔導士ザオベルの伝説です。いかがでしたか。




