第30話 槍の勇者の旅立ち
昔、ある村に槍の勇者がいました。勇者の槍は柄まで鋼でできていて、どんな盾でも貫くと国中に勇名を馳せていました。
「柄まで鋼で作ると重くて持ち運べない上に、突いた時に自分の手を痛めてしまって、とてもそんな槍は使い物にならないよ」
ありがとう、そうなんですね。でも、伝説ではそうなんです。吟遊詩人が槍を持ったことがあるとも思えませんし。
なんでも槍の勇者はその槍で、多くの魔物、魔族を討ち倒してきたと評判だったと言います。
「魔物や魔族なんて存在しないけどな」
ええ、実際にはグリフォンやドラゴン、ゴブリンやコボルトのような生物種がいるだけで、それらを大きく魔物や魔族としてくくることはできないんですけどね。ええ、ええ、オルクスもそうですね。
まあ、実際にはその勇者は大蛇を狩ることが得意だっただけの狩人だったということでさえなく、少し蛇の生態に詳しいだけの人だったわけです。でもまあ、それは今はどうでもいいです。
武勇で名を馳せた槍の勇者は、とある村で悪い龍が暴虐を働いていることを聞き、自分しか倒すことはできないと考えてドラゴン討伐に起ち上がります。
故郷の村を旅立った勇者は途中でさまざまな賊徒や動物たちを討ち果たしながら、旅をしていきます。そしてついに龍の暴れる村に着きます。勇者は勇者と呼ばれるように、村につくなり旅の疲れも程々に、竜に戦いを挑みます。
「阿呆だな」
「頭悪いですね、その勇者」
「愚かだ」
ええ、私もそう思いますが、伝承なんてそんなもんですよ。
当然勇者は龍に敵わず、這々の体で村から逃げ出し、再起を図ることになります。龍、ドラゴンはなんといっても体が大きく、勇者は前脚で打ち払われただけで大きく跳ね飛ばされ、戦闘を続けることができなくなったのです。落ちた槍を拾い、勇者は馬車を捨てて脱出したんです。
勇者は村から脱出して安全なところまでいくと、体を癒しつつ、何が敗因だったかを考えます。
「考えるのは仕掛ける前にしろよ」
「全くです、師匠」
「うむうむ」
「オルクスにさえここまで言われるというのは相当頭悪いですね、その勇者」
いや、勘弁してくださいよ。その通りだとは思いますけど。
勇者はまず、近くの村を訪ねて、隣村の龍、ドラゴンについての話を聞き出していきます。特に弱点ですね。ドラゴンは硬い鱗に体を覆われていて、ただ槍で突いても傷はつけられません。槍で傷をつけるのであれば、鱗で覆われていない箇所を狙う必要があることを知ります。
そうはいっても勇者が一人で挑んだだけではドラゴンはこれらの弱点を覆ってしまい、傷つけられないようにしながら戦うのは明白です。ここで勇者は助力者の必要があることに思い至るわけです。
「そんなの私は大蛇討伐にいく前から知ってたぞ。勇者ってのは頭が悪いな」
「私だってこれまで一人で討伐に出たことなんてありませんよ。どれだけ自分を過信してたんですかね」
「うんうん」




