第29話 槍の勇者の龍退治
「私の父は地方の街の書士でした」
「書士?」
「領主や街の人の依頼で公式書類を作る仕事ですね。普通の領主さまでしたらリースブルクでの私やウェスタヤルトのエーバーハルトさんのような人を雇うのですけど、領主がいなくて住人に選ばれる町長が治めている場合では専業で雇うわけにはいかないので、父のような人が色々な人から書類作りを請け負うんです。そう言う書類を作る人を書士と言います」
「なるほど」
「ですから私は小さい頃から読み書き、そして計算ができたんです。その頃にはすでに、塔の魔女の歌は吟遊詩人に聞いて知っていたんです」
「塔の魔女...」
「ええ。私のお気に入りは、槍を携えた勇者と悪い龍を退治するたびに出る物語でした」
「槍の勇者...」それが自分のことであったらよかったのに。
「一緒に旅をした男は槍なんか持ってなかったし、旅した末に退治したのも龍どころかただのでかい蛇だったけどな」とは師匠。
「師匠。美しい物語を腐すのはやめてくださいよ」とはフィルさん。
「そんなこと言ってもなぁ、実際に旅した私からしてみれば、あんな性格が悪い不細工と恋物語をでっち上げられるのは腹立たしい限りだぞ?この世で二人きりになったとしても、あいつとの恋なんてありえん」
「そんなに・・・?」
「いや、そもそもあいつはただ蛇に詳しいだけの男で、騎士だの戦士だのじゃなかったんだよ。大蛇を退治しなくちゃいけなくなったけど、その頃の私はあまり蛇の習性に詳しくなくってな。それで蛇の習性に詳しい男を探して雇ったんだよ。あいつは結局、蛇退治では口ばっかりで何もしてくれなかった」
「師匠...今は私が物語を語る時ですよ」
「ああ、そうだったな。すまない」
「後で師匠に聞いた実際の話とはまあ、全然違うんですが、龍退治に最初に出立するのは槍の戦士です」
「うん」
「ある山間の村には長い間悪い龍が住んでいて、年に一度、村の娘を生贄にしていたんです」
「実際の蛇は年に一度どころか、腹が減ったら村人を老若男女問わず丸呑みしていて、現れてから半年ほどですでに5人の村人が被害に遭っていた。子供が3人、年寄りと女が一人ずつだ」
「師匠」
「ああ、わかったよ」
「いえ、補足ありがとうございます」
「なんだよ」
知らなかった伝説を知ることができることはもちろんすごいけど、何よりその物語に歌われた当事者から補足してもらえるなんて、なんて贅沢なんだろう。




