第27話 異国の夜
その晩はコルムの人たちとしこたま飲み、久しぶりの宿をとった。
翌朝は出国手続きを取るために、代官館へと出頭する。
コルムの代官館はもともとレルム領として対ミュルクヴィズ戦を考慮してレルム側の門のそばにある。今となっては対レルム戦を考慮しなくてはならず、立地的には防御力の面で不安があることが否めないけれど、そこまで手が回らないのは致し方ない。
代官のフェルディナントさんとはすでにイストドルフで会っているので、出国に関しては完全に書類手続きだけだ。従士の窓口係に差し出された書類に名前を書くだけだ。特に今回に関しては再入国禁止を約束する書類に署名するのはリーシアだけで、師匠、フィルさん、力強きものは単純に出国するだけの書類になる。
館の裏口から出てすぐに開いている門をくぐり、レルムへの道をゆく。ここは長い間普通の街道だったこともあって、割とのどかな道が続く。
国境の割には見通しもよく、野盗の類の心配も少ないように見える。それでも国境の街道は双方の警備もしにくく、治安が悪くなりがちだと思う。
「そんなに警戒しなくても、こんなグリフォンを連れた一行を襲うような盗賊なんか、いないと思うよ」というのは師匠。
「それにオルクスもいますしね」とは珍しくフィルさん。それはそう。オルクスの体格は人よりも頭一つ、二つ上回る。そしてただ大きいだけではなくて、筋骨隆々と逞しく、一目で手強さを感じさせる。確かにこの一行を襲撃するような奇特な賊徒はいないだろう。
そうは言っても、そこで油断できないのが自分だ。無意識のうちに街道の先、木の幹の陰、茂みの向こうに目をつけてしまう。こればかりは性分なので仕方がない。キューちゃんも同様に先が気になるようだけれども、流石にキューちゃんを飛ばせて道行を混乱させるわけにもいかない。
キューちゃんの首を撫でて宥めつつ、街道を進む。当然だが街道には一行の他に通行者はいなく、人影は見当たらない。時折野生動物の気配がするが、これも当然だが狼程度では襲いかかってきたりせずに、こちらを伺う気配を見せては森の奥に消えていく。
当然だが日のあるうちにはどこにも行き当たらず、まだ明るいうちに着いたらしい野営地に野営の支度を始める。
ここは数年前まではレルムの完全な支配地だったわけで、まだそれほど実感はないけれども、なんだか不思議と異国だと思い始めた。
初夏の、暑さを思わせる夜空を見上げ、生まれて初めての外国の夜を眠った。
 




