第25話 酔客
キューちゃん、ロバ、そしてワゴンを繋いでくると、宿の酒場では師匠とフィルさんが他の酔客から問い詰められているところだった。
「どうしたんだ?」と問うてみる。
「いやね、私たちがコルムを攻略したウェスタヤルトの兵士だったんじゃないかっていうんだよ」
「ふぅん?それは何か、根拠があっていっているのかい?」
「いや、お前らはウェスタヤルトの人間だろう!?だったらコルムを侵略した当人じゃねえか!」とは酔客。同調する地元民らしい客もいる。
「君たちの言い分はおかしくないか?」とリーシアは反論を試みる。
「私の知る限り、コルムへの攻撃はウェスタヤルトが攻撃されたせいでその報復としておこなわれたものだ。これは実際に私がウェスタヤルト防衛戦を戦ったから断言できる」
「だったらこれは単に、どっちが良いも悪いもない話で、単にどちらの軍隊・兵士が強かったかっていう話だけなんじゃないか?そのことで例えウェスタヤルト兵がここにいたとしても責められる理由はないんじゃないか?」
「う・・・」
「それにこちらの魔道士ザオベルはウェスタヤルトの領民ではないから、従軍したりはしない。ギュンター公に忠誠を誓った騎士でもなければ、給料を受け取る兵士でもない。実際にコルム攻撃には参加していない」
「それじゃ、お前、アマっこ。お前がそうだな。確かグリフォンに乗ってたやつがいた!」
「うん?この世にグリフォンが1羽しかいないとでも思ってるのかな?」
「うるせえ!グリフォンがいくらいたって、人を乗せて飛べるやつがそんなにゴロゴロいるわけがないだろうが!」
「ううん・・・。それがいるんだよ、ごめんね。さっき繋いできたキュリオは私の乗騎で、ピコーという兄弟がいるんだよ。ピコーはもう一人のウェスタヤルト騎士カルル・リースブルクの乗騎だ」
カルルの名を出すと流石に心の棘が疼く。
「つまり、これまでウェスタヤルトにはグリフォンリッターが2騎あったんだ」
「な・・・・。」
「驚くよね、普通。グリフォン自体ほとんど伝説と言っていい生き物だというのに、そのグリフォンに乗る騎士がいるというだけでは飽き足らず、そんなのがこの世に2騎もあるっていうんだからね」
「な・・・、何・・・。」
酔客は口を開けて何かを言い返そうとするが、言葉にならない。
「そのカルルってのがコルムを占領した騎士の一人だってのか」とは別の地元客。
「そうだけど、カルルはリースブルクの領主だ。一領民がなんとかできる平騎士とは違うよ?領地のない平騎士なら君達でも夜襲できるかもしれないけど」
「どっちにしても、騎士を襲うとかまともじゃない。その場で斬り殺されても仕方がないことだよ?」とは師匠。
「ち、違うんだよ。俺は単に、何で俺たちコルムがミュルクヴィズの支配下にならなきゃいけなかったのかを知りたかったんだ。ここを攻撃した兵士なら事情を知ってんじゃないかと思って」と、かなり勢いが削がれた様子だ。
「ああ、そういうことなら、私に聞くといい」とリーシアが答える。
そして、コルムが攻略されるに至った経緯をテーブルについて、食事をしながら説明した。
「以上が経緯だ。最終的にコルムが陥落した時には私は参戦していなかったから、カルルからの伝え聞きなので、不正確かもしれない。間違いがあるかもしれない。それでも大筋は理解してもらえると思う。納得はできないだろうけど、理解してほしい」
「ああ、そういえば、恐ろしく強い騎士だか兵士だかがいたって聞いたな」とはまた別の客。
「なんでも、そいつの前に立っただけで殺されたって。剣をいつ抜いたのかもわからず、死んだ兵士も切り傷がなかったんだとか」
それはそれは。神槍李書文の全伝を受けたカルルならばそうであるだろう。
「リーシア様の一の弟子、カルル様ならそうでしょうな」とは力強きもの。
「あ、あんた。領主様の師匠だってのか?」
「ま、まあ・・・」前領主で今は追放の身であるというのは流石に外聞が悪いので、口に人差し指を当てて口止めする。
「悪いんだが、アマっ子のあんたが領主様の師匠ってのはちょっと信じ難いな。アマっこにしてはいい体つきしてるけど、所詮はアマっ子だ。おっと、体つきってのは女としてじゃなくて、兵隊として、だぜ」
「なるほど」何だか前にもこんなことがあったなぁ。




