第24話 コルムの宿
コルムの城門はなんだか懐かしい。あの時は破城槌で一当てしただけだし、ほとんど上空から弓を射掛け、あとはひたすら撤退戦の殿だった。
森の間を吹き抜ける風が気持ちいい。
城門に近づくと、影から門衛が出てきて誰何してくる。
「なにものか!」
「騎士リーシアとその一行である」と、ソードを掲げてみせる。
リーシアたちが近づいてから兵士がソードを十分確認した上で、リーシアの顔を見、師匠の顔を見、フィルさんの顔を見てから破顔した。
「お久しぶりです、騎士リーシア!コルム攻撃には自分も参加しております。そちらの魔導士様も一緒でしたな」とフィルさんを示す。
「そちらのグリフォンはあの時のと同じですか?」
「ああ、そうだ」と返事をする。
とは言え、正直に言ってしまえば、この兵士の顔にリーシアは覚えがなかった。砦攻めをした後に一緒に眠った一人なのか、それとも一緒に撤退戦を戦った一人なのか。
「あの時はもう一人農民らしい男と、子供がおりましたね、お元気ですか」
「ああ、おかげさまで、元気だよ。キューちゃんは君のことを覚えているようだ。賢いんだ」
「そちらの女性と、そちらは?」と聞くので、
「師匠の魔導士、ザオベル様とオルクスの徒弟、力強きもの」
「オルクス!初めてみました。徒弟ということは騎士を目指しているので?」
「いいや、そういうわけではないけれど」
「リーシアはちょっと独特な武芸を身につけているんだ」とは師匠。
「おお!」
「それを私たちも学んでいるわけさ」
「それは私にも学べるものでしょうか」と聞くので
「正直に言えば、難しいと言わなくてはいけない。基礎から何年もかかって習得するものだから。君が主君から何年も離れることはできないだろう?」
と答えておく。
「それは残念です。コルムを楽しんでください」と道を開けてもらえた。
「ありがとう」
まずは泊まるところだ。大体門を潜ってすぐのところに宿がある。看板を見て戸を叩いた。
「いらっしゃい!」
「男二人、女二人。それにロバとワゴン、グリフォン」と要望を伝える。
「グリフォン!!」
と、宿屋の食堂が沸き立った。
曰く「何年か前の戦闘ではグリフォンがいたけど、上を飛んでただけだったぜ!」
曰く「俺は街の外にいた恐ろしくでかいワシを見たぞ!あれがグリフォンだろ!」
曰く「グリフォンなんかでたらめさ!そんなの伝説!」
などなど、ひっくり返したような騒ぎになった。
大騒ぎの中、宿の主に部屋を頼み、部屋の鍵二つ、それに厩の綱と札、飼い葉と丸ごと焼いた豚を一頭受け取った。




