第21話 宣告
ギュンター公の理不尽な裁判に呆然としている間に、ギュンター公、バウト様、エーバーハルト様、ラド様、そして原告になるカルルの5人で話し合いがおこなわれた。
なんだ?一体何が起こったんだ?自分はカルルに慕われていると思っていたし、今、私の罪状を話し合っている皆から悪感情は抱かれていないと思っていた。その人たちが自分を無実の罪で陥れるという今の状況自体が全く理解ができない。
せめてここにロタール様でもいるのであれば、陰謀に対しての抵抗感も湧くのだけれど、これじゃ全く訳がわからない。
しばらく話し合いが続いた結果、どうやら結論が出たらしい。バウト様はまあ、積極的に発言してはいなかったようで、公太子として名目上出席しなくちゃいけなかっただけに見える。
ギュンター公がおもむろに口を開く。
「騎士リーシア。貴公の不正についてその罪は詳らかとなり、罰が確定した」
「リーシア・リースブルク。貴公をリースブルクの領主から解任の上、ウェスタヤルト領からの追放処分とする。騎士身分の剥奪については、我ギュンター・ウェスタヤルトにはその権限がないので、それはおこなえない。こののちも騎士身分であり続けることに異存はない。ただし、リースブルク領からの追放が刑に含まれる以上、名乗りとしてリースブルクを使うことは許されぬ。今後は故郷、ヴェイツェンドルフを名乗られるが良い。」
リ、リースブルク領が取り上げられる・・・。
「ギュンター様。ご質問をしてもよろしいでしょうか」とリーシアは問うてみる。
ギュンター公の許可を得て、
「リースブルクは今後、なんと呼ばれることになるのでしょうか。罪人の名を冠した砦など、領民は快く思わぬのではないかと」
「うむ、貴公の心配はもっともであるが、この処分によって土地の名称が変わることはない。リースブルク、リーシア砦のままで今後も我が領、ウェスタヤルトの守りの要となる。他に質しておきたいことはないか?」
な、なんだろう。ギュンター公から罰せられているというのに、リーシアが感じるのはここにいる皆からの温かい気持ちばかりだ。おかしい、無実の罪で陥れられている最中であるというのに、まるでみんなから応援されているかのように感じる。
つい涙ぐんで見上げた、ギュンター公の、エーバーハルト様の、ラド様の表情からはそんな気持ちは欠片も読み取れないというのに、この場が裁判ではなくまるで壮行会のような温かみがある。
なんだろう、みんなを恨みたいのに、全然そういう気持ちになれない。
「い、いいえ。ございませぬ。リーシア・ヴェイツェンドルフ、この刑罰を謹んでお受けいたします」
うつむいた顔から涙が床を濡らした。
「あ」とバウト様の声が聞こえたけれど、周囲の人に制されたらしい。
「うむ。刑の執行は明日以降となる。本日からは領舘退去の支度をするが良い。下がって良い」とはギュンター公。
「は」と承って、カルルに連れられ、城を退去する。手枷をはめられたまま、滂沱の涙を流しつつ街を歩く。ウェスタヤルトに初めて来て希望に満ちて歩いたこと、警備のために街を巡回したことなどが思い起こされ、この景色をもう見ることができないのだと思うと、もっと記憶に留めておきたいのに、さらに涙が溢れてきて周りが見えなくなる。
手枷をはめらてて、街中を引きまわされること自体が一種の刑罰で、街の女将さん連中の噂話が断片的に耳に入る。リーシアの評価が下がったんだろうなと思う。悲しい。
館に戻ると、カルルによって手枷が解かれ、「騎士リーシア、持っていきたいものはなんでも持っていって構わない。そうせよとギュンター公から承っておる」と宣告された。
こんな泣きっつらをカルルにだけは見せたくないと思ったけれども、あまりにも今更だった。




