第20話 訴追
リーシアが書類仕事に追われて忙しい毎日を送っていた春先、リーシアはカルルに拘束された。
カルルに?拘束?なんで?
心当たりは全くない。全く訳がわからない。それは本気になって暴れれば、カルルごときに拘束されたりはしないけれど、そんなことをしてどうするとは思う。仮にもカルルが騎士としての権限を持ってリーシアを拘束しようとしている以上、ここでカルルに逆らえばリーシアはギュンター公へ叛逆を謀ったということになる。
そんな、お尋ね者になるようなことは避けねばならない。
「ちょ、ちょっと待ってカルル!何をしてるの!リーシアはあなたと共同統治してるんでしょう?」とは師匠の弁。
リーシアも全く同じ気持ちだけれども、カルルがギュンター公の命令に従って仕方なく行動しているのかもしれない。珍しく無表情なカルルからはそこは読み取れないけれど、リーシアもそこは強く言いたい。
カルル、カルル。あなたは私をなぜ拘束するの?私があなたに一体何をしたというの?それとも何かして欲しいことをしなかったから?それが男女の関係に関することだったらそれはそれで確かに応えられないし、でもカルルがリーシアにそんな気持ちを抱いていると思えたことはないから、そんなわけはない。では一体何で自分は拘束されているんだろう?
わからない。
一体なぜ、なぜ、なぜ?そんな取り止めもない思いばかりが浮かんでは次の思いに取って代わられるけれども、どの想いもリーシアの気持ちを納得させはしない。後ろ手に縛られて、自室に転がされ、一晩を過ごした。
全く、なんてことだ。
朝、陽が登り始める前、東の空がようやく白んできた頃、カルルに引っ立てられて、ウェスタヤルト城に連行された。乱暴ではないけれども、いつもとは違ってよそよそしいカルルには質問ができない。
カルルに付き添われ、というよりは連行され、ギュンター公の接見の間に連れていかれる。
中央に立たされたまま、ギュンター公のお越しを待つ。
しばらくしてギュンター公がお越しになり、着座する。
「座るがいい」と公がいうのでリーシアは膝をつく。
「さて、今日はなんの用事であるか」と公が問う。
え?公の命令でカルルがいやいや従ったんじゃないの?と口をついて出そうになるが、そこはグッと堪える。
「は、本日は我が領、リースブルクにおいて、共同統治者リーシアの不正が発覚しました。そこでギュンター公においてはこれを裁定して頂きたく罷り越して御座います」
は?不正?あれだけ必死に書類仕事してた私が不正????なんの?何言ってんの?カルル。
「うむ、相わかった。その不正の証拠はあるか」
「は」とカルルが進み出て、ギュンター公に書類を渡した。
は?証拠?なんの?確かに書類仕事は私がやっていたけれど、不正・・・???
ギュンター公は書類をふむふむと読み、納得した様子で顔を上げる。
「確かにリーシアの不正は明白であるな。騎士リーシア。この件について申し開きはあるか」
も、申し開き???何について???
「は、はい・・・。申し開きをせよとのことですが、そもそも私がなんの不正をしたのか、全く見に覚えがなく、何をどう申し開いたらよいのかも・・・」
「わかった、特にもうし開くことがないということでよいな。これは訴えられたことを全面的に認めることと受け止め、罪状を確定するがよいか」
「い、いえ。自分は全く不正をおこなってはおりませぬ。罪状などととんでもないことで御座います」
「その抗弁は抗弁として認められんな。これ以上の申し開きがないのであれば、貴公の罰を確定する」
え、えええ・・・。こんな理不尽が罷り通るのか・・・。




