第19話 初夏の憂鬱
春になり、オルクスドルフからの献上品を受け取り、ウェスタヤルトなどとも行き来が増えると、リーシアの仕事も増えてくる。一概に喜ばしいことともいえないが、子供が増えた。冬の間に親を亡くした子供、カールがやってきた。ぺぺたちよりは一つ下で、ビュクヴィル、ソルザルの後輩に当たる。シギベルト、ギーゼルヘルに農業を教わり始めている。スキュラはまだまだ子供から手を離せないし、クリムヘルトも臨月間近だ。
住民を早いうちに記録しておく必要は理解しているので、もちろん師匠やフィルさんの助けはあるにしても、名前や生まれた年、性別、親の名前なども記録しておかなくてはいけない。まだ文官のいないリースブルクでは、結局リーシアがやらなくてはいけない。なんとも仕事の多いことだ。
物が届けば自分で見て書類にサインを入れる。ウェスタヤルトの巡回はカルルによる代行を認められたけれども、何でもかんでもカルルに丸ごと仕事を投げるわけにもいかない。
言ってはなんだけど、前世も含めてリーシアは文官型の人間じゃない。武官というのはこれまた語弊があるにしても、武人なのは間違いない。毎日毎日机に向かって書類仕事をしているのは苦痛でしかない。とはいえやらねばならない。リーシア以外の誰かがやっていい仕事ではないから。リーシア、というよりは領主の替えが効かない。
オルクスからの人の受け入れ、外部からの物資購入、ウェスタヤルトから得られるカルルとリーシアの給金、逆にウェスタヤルトに納める税金の記録。リーシアがやらなければいけない書類仕事があまりに多すぎる。
フィルさんにリースブルクの文官として勤める気がないか打診をしたけれども、
「私はあくまでも魔道士ザオベルの徒弟に過ぎませんので」
と、あっさり断られた。
ギュンター公には文官を募集していて、いい人がいたら紹介して欲しいとは打診しているけれども、今のところいい人材はない。
時折訪れる旅人、商人もめぼしい人はまだ、いない。
連日、リーシアの決裁を待つ書類の束が厚みを増していくのを見て、ため息が出る。それでも武人として腕を落とすわけにはいかないし、ピーちゃんとの騎乗訓練も欠かせない。
全く、あまりにも時間が足りなさすぎる。こんな時に、攻め込んだり攻め込まれたりして出兵せざるを得なくなったら、リーシアの仕事は破綻してしまうかもしれない。
それでも書類を読んで、考えて判断して、許可を与えるのであれば署名していかなくてはいけない。
憂鬱だ。




