第14話 誅殺
奥にいるオルクスが徐に声を出し、師匠が「よくぞきた、人の子よ」と訳す。
一定の敬意は払うつもりはあるが、決して下手に出るつもりがないので相手に促されなくても自分から名乗る。
「自分はリースブルクのリーシア。この度はこちらの村にまずは顔見せに参った」
村長オルクスが気先を制されて鼻白み、鼻筋に皺を寄せる。
「う・・・」こちらの用件を促そうとしていたのか、用意していた言葉を飲み込んだらしい。
「誼を通じるつもりではあるので徒に関係を悪化させるつもりは毛頭ないが、我が領は一度オルクスに攻撃を受け、撃退をしたことがある。
「そのオルクスどもとこちらの村が無関係だとは思っておるが、万が一にも無関係とは言えないとなった場合には、一定の補償を求めるつもりではある」
「無理難題を吹っ掛けるつもりはないが、けじめは必要だ。よってまずはこの村が我が方に襲撃をおこなったものかどうか、それを問いたい」
と一気に畳み掛ける。
村長は弛んだ頬をプルプルと振るわせて、言葉に詰まる。
それにしても、とリーシアは全然無関係なことに思いを馳せる。それにしても、こうして言葉による交渉が可能な分だけ、オルクスは優れた亜人種なのだなと思う。これがゴブリン族だとそもそも交渉すら成り立たない。ゴブリンにもそれなりの言葉はあるけど、言葉が通じれば交渉ができるとはリーシアには思えない。
人間同士でさえ、言葉の通じないものは大勢いる。それでも交渉に至らずに戦争でしか解決できないことが起きている。そういう中でこのオルクスたちのような「交渉ができる相手」というだけで貴重だと、リーシアは思うのだ。
「俺たちは・・・」
長い沈黙の後、村長が口を開いた。
「俺たちは!
立ち上がる。
「俺たちは所詮人外のオルクスよ!人間とは相容れぬ!殺して奪い、犯すのみよ!」
周辺の長老格のオルクスたちがおののく中、リーシアは抜剣して突貫し、腕を振り上げて叫ぶ村長の胸に切先を突き立てた。
筋肉が締まって剣が抜けなくなる前に胸を蹴って剣を抜き、椅子ごと後ろに倒れ込んだ村長の頭側に回り込んで、その素首を落とした。
そのまま髪を掴んで首を掲げ、高らかに宣言する。
「リースブルクを襲撃した首班の罪は贖った!これ以上の罪を私リーシアはこの村に問わない!この裁定に異論のあるものは今すぐ申し出よ!」
と叫ぶ。
師匠も声を張り上げていて、叫んだ以上は反応が気になって目が泳いでいる。
村長のいた一番の高みから、リーシアも睥睨する。
フロールヴは全くリーシアの判断に追いつけず、呆然と立っているけれど、メルさんは膝立ちの姿勢で弓に矢を番え、いつでも射れるように引き絞っているし、ピーちゃんはもう翼を大きく広げて周囲を睥睨している。ぺぺは鈍気の陰に隠れている。
奔るものも全く呆気にとられていて、完全に理解が追いついていない。
数拍おいて奔るものが気を取り直し、壇上に駆け上がった。
「我がオルクスも不用意に他国へ攻め込んだ根源、猛きものはその罪を命で贖った!これから我々オルクスは人間たちに対して何の負い目もない。これからはリーシア殿の仰るような対等な交易関係を築けるだろう。我奔るものはここに王代行としてリーシア領とは平和的な関係を築いていくことを宣う!
「異論のあるものは前に出て、その旨申し出よ!」
こうしてリースブルクとオルクスの村との両者において共同で宣言が発せられた。




