第8話 森を拓く
まず砦で戦さ支度を整えている間に、ギュンター公に報告するために登城する。公に言わせれば、
「貴公ならば下手は打つまい。切り取るもよし、交わるもよし」
「は。お任せいただきありがとうございます」
下城してから、リースブルクで準備の指揮を取る。ただ今回ピーちゃんはメインが戦闘と偵察になるので、いつもの馬車に装備を積んでいくことにした。もちろん、結構な食料やそして、井戸から汲み上げた水も大樽で三つは積んである。
こればかりは仕方がない。人間、多少の空腹は我慢できるが、水がなければあっさりと死ぬ。耐えることなどできはしない。これでもまだ、ウェスタヤルトから水を持って壁の上り下りをするよりはマシだ。
手入れは頑張っておこなってきたけれど、この馬車もずいぶんくたびれてきた感じが拭えない。荷物を積み込みながら、いろいろな思いがよぎる。
行軍時にはみんな、乗り込まないで歩いていくことになる。ロバについては仕方がない、2頭とも連れていくしかない。これで万一のことがあったら、砦の労働力は駄々下がりになるが、どうしようもない。
ピーちゃんの馬具は戦闘用のみになり、下から狙われやすい腹部や胸部には軽く装甲をつけてある。この辺りは特別なあつらえになる。
馬車の周囲にも、そしてロバたちにも軽く装甲を施してあるけれど、当然重くなった荷物にロバたちが嫌がる。
そうして支度を整え、いよいよ一行は砦を出立することになった。
しばらくは砦前の野原を進む。道はないものの、凹凸は大きくなく、それほど苦労はない。とはいえ森につくと、今度は馬車の通れる道を探らなくてはいけない。木の生え方がひどくないところを探し出し、皆で道を切り開いていく。
こういう時に「ちょっと装備が大袈裟だったかな」と、迷いが起きるが、いざという時に遅れをとるのは本意ではない。斧を振るいながら自分に言い聞かせる。師匠でさえも下生えや枝を「よいしょ」と抱えて運んでいる。少し伐り拓いては馬車を進めていく。
まだまだ森の外が見える距離までしか進めていない状態で、もう日暮れとなったので、野営の支度を始める。
いやいや、これはまたなかなかしんどい。下手をしたらまずは道路を開通させてから出ないと交渉もできないかもしれない。
いや、いかんいかん。弱気になったらまとまる交渉もまとまりはしないだろう。
久しぶりの野営で、あちこち硬くなった体を丸めながら、毛布で休みを取った。燃える枯葉や枯れ枝が温い。




