第14話 秋/大八極
リーシアがお祭りで優勝したので、今年の一家は豚一頭多くしこむことができ、去年よりもなんとなく食卓が豊かな感じがする。
パンをひたすスープも味が濃くておいしい。
何よりも嬉しいのが、父さまや母さま、二人の兄さまがごきげんでいてくれるのがうれしい。リーシア自身もつい、ニコニコしてしまう。
カルルは秋になって、川掌の鍛錬に進んだ。カルルもリーシア同様に体がずいぶん鍛えられ、小さめの刁球をつくって鍛えている。
どうやらカルルの家でも「来年はカルルもお祭りに出場して豚を」なんて話しているらしいけれども、まあ、優勝は無理だろうと思う。もちろん、今よりはもっと強くなるように鍛えるつもりだけれど、まだまだ化勁を学ぶのは早すぎる。化勁どころか発勁だってまだまだなのに。
そしてあのお祭りは、化勁ができなければ体格のおとる子どもが勝ち抜けるようにはできてない。
そしてリーシアにしたところで、前世の縁がなければ、化勁を知ることもなく、この祭りで一人として勝ち上がることはできなかっただろう。本当に縁とは不思議なものだ。
あの十ぐらい年上の太極拳家は確か、書文よりは先に亡くなったはずだが、書文の少ない多門派の知己としてつい懐かしんでしまう。
彼との交流で、書文は弟子に金剛八式を教えるようになった。彼も弟子に金剛八式を教えていたというが、こういう友情の証のようなものが世代を超えていくというのはなんとも面白いしおもはゆい。
そして彼の太極拳から書文は化勁を学び、リーシアとして大いに生かすことができた。
秋も深まり、震脚、貼山靠に手応えを感じられるようになった頃、リーシアは套路を大八極へと進めた。李書文の制定した大八極、八極拳二路、活八極ともいうが、纒糸勁を多用し、比較的他の八極拳よりは柔らかいのが特徴になる。
歩法も実戦を想定して敵の死角に入るための複雑なものが増え、小架とは趣がちがう。
攻撃を避け、死角に入りながらも自分からは絶好の一撃を打ち込む。
本来は同程度の腕前のもの二人で組んで、相対練習、つまり対練をおこなうための套路なのだが、カルルがそこまでにいたらない以上は仕方がない。敵を想定した、見切り、体捌き、そして攻撃を意識する。
大纒崩錐、連環腿、双撑。
一つ一つが何十年にもわたって磨き上げ、実戦で試し、弟子に伝えてきた書文の宝だ。
老師から伝えられた伝統の技も大事だが、自分で作ってきたこれらの技は思い入れが違う。
カルルもそういえば、八極拳をはじめてから鼻がつまらなくなったらしい。手指が真っ黒でなくなったのが何よりもリーシアにとってうれしい。
手首の角度をなおすのに、あの手に触るのはやっぱり引けてしまう。
今年の冬は一体どうなるだろう・・・・。




