第3話 連戦
こくりとフロールヴがうなずく。この程度で折れないのはよかったよかった。
微妙にモソモソと起き上がる。
「カルル、いけるね?」
「ああ」
君はそうだろうね。再び二人が対峙する。絵で描くと先ほどと全く同じ。フロールヴがまた左前に構えて開手とつま先を出す。カルルもまた、特に構えずに体を斜にする。
しかし、フロールヴがカルルを見くびっていないことがわかる。先ほどと同様に右拳で突く。カルルが前にした左手で捌く。太極拳の掤だ。
※太極拳の化勁。敵の攻撃の向きを自分の手を使ってそらす。
が、先ほどと違ってフロールヴもさらに歩を進めて捋させない。
※これも太極拳の化勁。こちらに向かう敵の攻撃を掴んで引き、敵の姿勢を崩す。
カルルも先ほどのような行動には出れないので、今度は右拳で突く。これはフロールヴの額に当たったので、硬いもの同士がぶつかる鈍い音が響く。
痛そう・・・。
そんなことはおくびにも出さないけれど。
人間、つい人を殴ろうとすると無意識に顔を狙いがちなんだけど、それで一番多いのが自分の拳の方を痛めることだ。頭の骨と、手の骨。見比べてみるまでもなく、どっちの方が壊れにくいかなんて、素人にだってわかる。
そう、より痛いのはカルルの方だ。痛みで拳を下げるカルルの胸に、フロールヴが左拳を入れる。
今度は硬いものが柔らかいものを叩く鈍い音がする。
音で表現すると、「ヒュッ!」「ゴッ!」「どすっ!」。
ただ、カルルも後ろに下がっていて胸への打撃は多少流している。
少し達成感を得たフロールヴの油断に、カルルの打ち下ろしが当たる。探馬掌、あるいは猛虎硬把山と言われる。打ち下ろしの勢いでフロールヴの防御をまとめて打ち落とした。
カルルの打撃を受けたフロールヴの右拳がその勢いのまま、右額を直撃する。
カルルがそのまま、左頂心肘を打ち込みかねなかったので、
「カルル!!やめろ!」
と、止める。まともに猛虎硬把山なんて入れてしまったら、大怪我をさせかねない。
ハッと気がついたカルルが寸前で肘打ではなく、下腕の側面打撃だけでとどまった。それでも八極拳の打撃は威力が高いので、フロールヴを吹き飛ばして尻餅どころか、まともに打ち倒す。
頭だけは打ってくれるなと思うのだが、頭が床に当たったような音はしない。少し安堵する。今度は意識があり、もぞりと起きあがろうとする。
「ヘンハオ」
「う・・・」
「まだやるかな」
「と、当然だ。まだ貴様の力をみていない・・・」
痛々しいなぁ・・・。
「わかったよ。怪我だけはしてくれるなよ。
「カルル、休んでいて。ぺぺ。フィレベルクさんに教わって、カルルの手当てを」
「はい!」っと、ぺぺが飛び上がるように返事をした。元気があってよろしい。
入れ違い様、カルルがボソッと
「流石に小さい頃から騎士として育てられてきたやつは強いな。疲れたよ」と言った。そりゃそうか。
 




