第44話 後輩騎士
夏を過ぎて館の屋根が葺かれ、皆の入居が始まった。日々の作業に追われながらなので、遅々として進まなかあったけれども、それでも秋口になる頃にはまあまあ、不便がありながらも小屋住まいからみんなが脱することができた。
共同領主になるリーシアとカルル、それから文官扱いのベル師匠、フィルさんが2階に個室を持ち、階下にはメルさん夫婦、従士見習いのぺぺ、それとクリムヘルトが住まう。空き部屋もまだあるが、これは今後の拡張に備えての余裕だ。残りの農夫、シギベルトとスキュラ、グリフォ一家、ギーゼルヘル、ビュグヴィル、ソルザルは小屋に住まう。
2羽のグリフォンは体格も相当大きくなり、もはや館の扉はくぐれない。悲しみに暮れる、キューちゃん、ピーちゃんだけれども、農民組と一緒に小屋住まいにとどまらざるを得なかった。鶏たちとロバ、それに春に買い込んだ牛が1頭。少し手広くなったけれども、まだまだこれから増やさなければ。
武具を運び込んでも館の部屋はまだまだ寂しい。広間も設けたけれども、出番があるのかどうか・・・。あまり豪華にし過ぎて、先輩騎士に目をつけられるのもリーシアとしては不本意だ。
とはいえ、先輩騎士の中にはウェスタヤルト領内に館があって、それほど大きく構えていられない騎士もいる。リースブルクの館はそれほど大きく作ったつもりはないけれども、彼らの館に比べれば、若輩のくせに大きすぎると反感を買うことは大いに考えられる。
李書文はもっとシンプルに「文句のあるやつは片端から打ちのめしてやればいい」などと宣ったりするけれども、一人で好き勝手できる武術家と違って、味方の騎士と力を合わせて戦う騎士では話が違うとリーシアは思うのだ。
個人戦と集団戦。一騎当千といえば聞こえはいいが、要はただ、戦場で孤立しているだけだ。いくらなんでも一人で一千人を倒すことはできない。いくら李書文の武術が一打必倒でも、千打を打つだけでも力尽きかねない。ましてや実戦なのだから敵だって黙ってやられてはくれない。
一人で十人も倒せれば大英雄だろう。そうなるとやはり味方の兵士は多い方がいいに決まっている。戦さでもないのに敵を増やしても、いいことは何もない。
そうこうして秋たけなわ、一人の騎士がウェスタヤルトにきた。何年か前のリーシアと同じ、所領を求めてさすらう新米騎士だった。
だが、リーシアと違って着任早々にレルムが攻撃を攻撃を仕掛けてくることなんて、まずない。何しろ。レルムとの国境はリーシアの頃に比べて歩いて5日は西に動いた。それまで最前線だったウェスタヤルトはもうミュルクヴィズ西部の大都市だ。
なんだかこう、彼に申し訳なくていたたまれない。名前も知らないけれど。
と思ってまるで他人事のつもりをしていたところが、思いがけなく縁が生まれることになってしまった。




