第31話 ラブ・・・、レター?
箝口令を敷いたあと、しばらくは平穏な日が何日か続いた。が、どうやら市井では「ファイト様が女騎士を娶るらしい」との噂が囁かれ始めていると言うなんとも、風の噂にも程がある噂がリーシアの耳にも入るようになってきた。
よくある「隣に住んでる騎士様の親戚の奥様の姪がそういってた」とか、「エーバーハルトさんがその件で悩んでいてお陰で体調を崩して3日寝込んだ」の類だけれど、当のリーシアにしてみればひたすら頭の痛い話である。
何しろ正式な話が全く知らされていない以上、肯定も否定もしかねることだからだ。正式に申し込みがあればまだお断りした上で、否定することもできよう。
ところが全くそう言う話のない中で否定なんかしてみれば「何を思い上がっているのか」と言う話にしかならない。
全くそんな話なんか聞いたこともない、噂も知らないと言う顔でもしなければやっていられない。
そんな中、ついに動きが出た。すなわち、ファイト様からの求婚(?)の書簡だ。(?)となるのはなんのことはない、文面がリーシアにとって意味不明だったから。
リーシアとしては話の流れとしてまず、ファイト様から好意を抱いたことやその理由、婚姻によってリーシアがどんな利益を得るのか、それによってリーシアの同意を得ようとする内容になるかと思っていた。
はっきりいってリーシアにとってファイト様は単に、君主の後継でしかない。コルム攻略で顔は見知っているし、何度か声は聞いたがそれだけだ。
リーシアのことをどう思っているのか、なぜ嫁に欲しいのか、嫁にとってどうするのかは全く知らない。
それなのに、書簡の内容は「私たちの結婚を父に認めて欲しいから、ぜひ説得してほしい」だったのだ。全く意味がわからない。この王子様は一体、私のことをどう思っているんだろう?自分が声をかけた女は誰もがなびく、この世の女は全て自分のものだとでも思っているんだろうか・・・。
ただでさえ情勢的にこの縁談の断り方をどうするか悩んでいたところにこの扱いでは、全く「今回のお話は無かったことに」としかならない。しかも文面から察するに、ギュンター公はこの件に全く乗り気ではないらしい。
これならお断りするのに躊躇しなくて済む。
それにしてもファイト様は、思っていた以上にだめな人だったな・・・。コルム攻略では「意外とできる」と思っていたんだけれど、戦以外では良くあるだめプリンスだったかと。
これはまず、ファイト様にお断りするお手紙を出さなければならんだろう。
時候の挨拶にはじまって、今回のお話について、めでたいお話ではあるけれども、自分にとって過分な評価であり、とてもお受けするわけにはいかないだろうこと。
ギュンター公に反対されているのにはおそらく理由があるので、その理由を考えていただいた上でどうかウェスタヤルトの妃にはふさわしい姫を選んでいただきたいとつらつらフィルさんに書いてもらう。
もちろん自分で書けるし、こんな手紙を出すのはやぶさかではないのだが、師匠によれば直接筆記するのは「はしたない」そうだ。
まあ、しきたりと言うのは得てしてそんなもんでしょう。
羊皮紙の下に署名を入れて、指輪で封蝋に印を入れる。
あとはこれを届けるだけだが、なんとなく領民を使って届けさせるのは気が引ける。なんとなくだけど、お断りの手紙である以上、使者が余計な被害に遭うこともありえる。
悩んだ末に、キューちゃんに運んでもらうことにした。ウェスタヤルトでキューちゃんピーちゃんを知らん奴はいないだろう。そして誰からの使いかわからないものも。




