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神槍は転生してもやはり神槍を目指す  作者: Scull
第3章

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第30話 緘口令

正直、論功行賞のあと、どうやって砦に戻れたのか、リーシアには記憶がない。カルルがいたはずだから、まあ、彼がなんとかしてくれたんだろう。その点に関してはカルルなら間違いない。


いや、それにしてもファイト様はなぜあんなことを突然言い出したのか。全くもってわからない。


砦に戻って落ち着いて、みんなを前にして報告をする。

今回の遠征での褒賞。その中での皆への分配と、砦の建築に分ける分の説明。此度こたびの賞与でわずかばかりとはいえゆとりができたことで、少しだけ皆の顔が緩む。


で、少し改まって、ファイト様が戦の褒章に自分を求めたことを伝えると、砦が一斉にざわついた。


二組の農民夫婦は単純な慶事に喜んでいる。ピーちゃん、キューちゃんはまあ、わからんか。既に知っている3人の男どもは置いておいて、微妙な反応なのがベル師匠だった。


「師匠、どうしました」と、問うてみると、

「これは案外喜んでばかりもいられないねえ・・・」と、表情そのままの渋い返事。


「道師様、ご結婚のお話が喜んでばかりいられないというのは、どういうことでしょうか?」とはスキュラ。

「それは確かに、式やらなにやら支度もあるので喜んでばかりもいられないことではあるのでしょうが」


「あ、ああ。それはね」と言い淀んでしまった、師匠の後を継いでみる。


「つまり、このリーシア砦が平たく言えば取りつぶしになるってことだから」と。


「えええっ!」っと、みんなに動揺が走った。カルル、君もわかってなかったのか・・・。


「つまり、私を嫁に欲しいとおっしゃったファイト様の立場が問題なんだよ」


「ファイト様はギュンター公の太子、つまり跡取りになる」


ここまではみんなもわかったらしい。


「となると、私と婚姻する場合には、私に婿入りすることはできないわけだね。だからと言って公太子の座を捨てることもないだろう。つまり、リーシア砦は一旦ファイト様の領地になった上で、ウェスタヤルトに併合されることになる」


「これは実質、私の領地の取りつぶしということだ」


「「「「あ!!!!」」」」


ここに至って全員の理解が得られたらしい。


「これは実質、私に対する懲罰と言ってもいい」


「とは言え、さっきの話じゃ、リーシア。今回の戦では目立った軍功こそないものの、城門破りにしくじった騎士のような失策もなかったんじゃないのか」


「そうなんですよ、師匠。だからこそなんでファイト様があんなことを言い出したのかがわからなくって」


「そうだな・・・。」というのはメルさん。


「公太子とは言えとんでもねえな・・・」とか言い出すのはカルル。


「カルル、くれぐれも迂闊なことは言ったりしたりしないでくれたまえよ。ファイト様は仮にも主君の跡取りなんだぞ。ファイト様に何かあったら私は反逆者のお尋ね者だ。

「ギュンター公に睨まれて結局砦を出奔してしまうんでは、元も子もない」


「ええ・・・。それではリーシア様は公太子様からなにか、恨みでも買ってしまったっていうことなんですか」とはギーゼルヘル。


「恨んだ娘を嫁に求めるというのはちょっと理解ができないね」

疑義を提示するのはやっぱり師匠。


「どちらかと言えば、リーシアに好意を持っているのは確かだろう」


「やっぱりとんでもねえな、あいつ」

カルルは黙っていてくれないかな・・・。


「それはつまり?」


「つまり、そういう好意を知った上で、それを使って憂さを晴らそうとしたんだろうな」


憂さ?

ということはその誰かは、この戦でなにかしら損をし、その鬱憤を私で晴らそうとした?


「そう、リーシア。つまりはそういうことだよ」


「どういうことだ?」と口を揃えるのは、カルルとメルさん。


「つまり、誰かの恨みを買ってしまったのは間違いないが、それはファイト様ではないってことだね、師匠。

「その誰かは、この戦で損をしたもので、なおかつ、ファイト様になにかを提案できる立場だってこと」


「それはあいつか、名前は知らんけど」


「メロヴィク殿、そこまで」と、かしこまった言い方で念押しをしておこう。不用意な発言をされると、私がその誰かを貶めようとしたことになってしまう。それこそその誰かの狙い通りだ。

念のため全員に口に人差し指を立ててみせ、これ以上は発言不要と示しておく。


「僕はね、リーシア」とは師匠。

「一時の動揺はあるにしても、ギュンター公だって愚公ではないからその褒美は認めないと予想してるんだよ」


「なるほど」


「だったらその誰かは、ギュンター公が結論を出す前にリーシアが騒いで墓穴を掘ってくれたらいいんじゃないか、程度のことしか考えてないんじゃないか?」


「な、なるほど・・・。」


「特にカルル!血迷ってあちこち聞き回ったりして、騒ぎを大きくするんじゃないよ!」


「お、おう、わかったよ・・・」


「他のみんなも同じだからね。この砦だって、ギュンター様のお膝元。誰が聞いているかなんてわかったもんじゃないからね。この話についてはこれから一切、畑仕事の合間であっても、周りに砦の人間しかいないとわかってても、口に出しちゃいけないよ。


「さもなければ、住むところを失うかもしれないって、覚悟しておいて。特に、農民の4人。住処をなくして一番困るのは君たちだからね。

「カルルもメロヴィクも、君たちが迂闊なことをしたら、一番困るのはこの二組だからね。彼らを養っていく覚悟がない限り、口は縫い付けておいてね」

と、師匠がさらに追い打ちをかける。


4人の農民の血の気が、はっきりわかるほど引いている。

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