第23話 紛糾
軍議は紛糾し、結論は遅れに遅れた。もちろん、慎重論を唱えるのがリーシアだけならすぐに楽観論で決着し、バンザイ突撃になっただろうが、慎重論をそれとなくファイト様が支持していたので、結論が次第次第に慎重な方向にずれることになる。
いわく、突撃前にはリーシアとキュリオによる偵察を行う。
いわく、偵察の際には上空から弓射を行い、可能な限り戦力を削ぐ。
いわく、一部の部隊は一旦砦に向かって退路を確保する。
いわく、いわく・・・。
とはいえ、リーシアは馬具がないので、それほど強い陽動はできない。既存の騎馬用の馬具ではまるでサイズが合わないこともあった。
「先の砦攻略で思い知りましたが、馬具のない状態ではまるで戦力になりませぬ。
「コルムの攻略では、私は徒にて戦いとうございます」
と、上申しておかないと何をやらされるかわかったものじゃない。
「ふむ」と参謀さんが頷く。
なんにしても、あんまり新参者が軍功をあげてもいいことはない。ファイト様が認めてくださっているんだから、ここは諸先輩方の顔を立てておくのにしくはない。
先輩方の議論は既に誰が先陣を切るかに移っていて、もはやリーシアが口を挟むよりはない。
「ロタール殿。軍功を焦る気持ちはわからなくもないが、まずは年長者を立ててはどうだろうな?」
「イムレ様。イムレ様はこれまで軍功華やかでギュンター様もイムレ様を第一に考えていらっしゃるでしょう。若いものに多少譲ったところで、蔑ろにされることはございますまい」
「イムレ様、ロタール様。私たち若輩者にも手柄をあげる機会を恵んではくださいませんか」
もう、リーシアにはどうでもいいところに話が移っている。リーシアの隊はもはや戦闘開始前には撤退を始める算段になっている。とはいえ、実際には陽動兼、偵察を追えないとキューちゃんが馬車を引けない。タイミングはリーシアが図る必要があるから、ここは乗らないとどうにもならない。
あとはもう、先陣争いだけになったので、リーシアの思いは軍議から離れる。どの隊が先陣を切ろうが、あの防衛戦ではボロボロにされて退がるしかない。
すぐに軍議はしめられ、解散する。ファイト様はテキパキと本陣の撤退を指示し始めた。他の騎士様たちは全然そんな気配はなく、リーシアに言わせると呑気なものだ。
リーシアは隊に戻ると即座に撤退できるように指示を出す。とはいえ、ファイト様の隊よりは先行するわけには行かない。しんがりは無理だけど、大将より先に戦場をさるのは敵前逃亡だ。
斯くして、コルム攻略の支度は整った。




