第17話 村
翌日の偵察では、レルムの、と言っていいのか不明なほど、帰属がよくわからない村が見えると報告をした。山間の村はわずかな平地に作物を作り、幾ばくかの家畜がいる。おそらくレルムも、軍隊などを泊められるような余裕はないだろう。見つかった家屋は数棟。
レルムに察知された気配はまだないけれども、一旦村に入ったら、そこを拠点にするのだろうか。この村からさらに峠を越えないと、レルムには入れないそうなので、行軍としては文字通り峠だ。
ファイト様はどう判断されるのだろう。まあ、これ以上はリーシアの考えの及ぶところではないけれど、なんて思っていたら
「貴卿。卿はどう判断する?
「件の村、イストドルフにおそらく今日中に着くだろう。一旦そこを拠点にするか、さらにコルムに足を伸ばすか」
「恐れながら」
「うぬ。よい」
「偵察によれば、件の村はおよそ我らが礎にするには、よほど小さすぎるとのこと。ここはコルムに駒を進め、より盤石な支えをもとに掠めとるのがよいのではと愚考いたします」
と、ふりかえって
「どうか?」と幕僚に意見を求められた。
脇に控えた幕僚が
「よろしいのでは。イストドルフでは食料などを買い求め、即座に出立しましょう。
「その先に峠があります。峠の手前で宿営しましょう」
と、返した。
「相わかった」
ファイト様の馬車を辞し、自分のワゴンに戻って出立する。相変わらず殿ののんびり旅だ。
日が暮れるよりも前に村は通過し、村の外で宿営を始める。
翌朝はもう、早朝から出立を始める。キューちゃんの偵察では、どうやら山頂の砦にもう、レルムの兵士が入り始めているらしい。その旨を報告すると伝令が馬を走らせることになった。出発しようとした部隊の足も停められる。
急遽集まった部隊長が顔を突き合わせて軍議を始める。
偵察の報告がされ、峠道がレルムの砦によって事実上封鎖されてることが俎上にのぼる。このまま進軍しても峠で砦から攻撃され、ままならない。まずは砦の攻略が先決となってしまった。
とはいえ、おそらく峠を越えなければ砦に登る道はない。ウェスタヤルト側には断崖絶壁しなく、まず持って難攻不落と言える。
現実的には撤退が最良の選択になるけれども、今回の出兵理由から言って、敵が出てきたから退却しましたとはなかなかいかないだろう。
実際のところリーシアにしてみれば、リーシアが単騎でキューちゃんと共に空から襲撃すればひょっとしたら何とかなるかもしれないけれど、これだとリーシアが手柄を独り占めするし、危険を一人で被ることになり、ファイト様の手柄にならない。
何よりもこの部隊の中では一番下っ端でしかない。
じっと俯くことしかできない。
「恐れながら」と、昨日の参謀さんがおずおずと声を上げる。
「よい」とはファイト様。
「リーシア殿がグリフォンを持っておられます。そちらで砦を襲うのはいかがでしょうか」
「なるほど。アドルフ、貴公はこの策をどう思う?」
「は。確かにグリフォンならば空から砦は襲えますが、単騎というのはいかにグリフォンとて荷が重いのではないでしょうか」
「私もたった一騎では困難なのではないかと愚考します」というのはイムレさん。いろんな受け止め方ができる言い方だけど、言いたいことはよくわかる。とは言いつつも、リーシアとキューちゃんを使わなければ砦の攻略もまた、峠を越えてコルムに至ることも不可能なこともわかりきっている。
ではどうすべきか。




