第14話 出征命令
夏の間の耕作で結構な夏野菜が栽培でき、食卓は結構豊かなものになった。それでも全体として食料としては不足しているため、ウェスタヤルトから購入しなくてはいけない。それでもまあ、財政としては「まあまあ」でしかなく、まだまだ館の建設にまで、資金が回らない。
グリフォン2羽はずいぶん大きくなって、旺盛な食欲を発揮し、リーシアのお財布を圧迫する。当然、ウェスタヤルトの巡回は、大事な収入源になるので欠かせないため、堀と塀が築かれた後は、なかなか砦の建設に手が回らない。
当然、リーシアたちの練兵も怠るわけにはいかず、毎日が目まぐるしい。
こうして夏がすぎ、秋の風情が近づいて収穫と麦蒔きが近づいてきた頃、エーバーハルトさんから大公名義で出兵命令が届いた。なんでも、レルムに対して昨年の報復として出兵し、可能な限り領地の拡張を図る、というもの。もちろん拒否なんかはできないけれども、なかなかに頭の痛い問題になる。正直言ってそんなことをやってる余裕は今のリーシア砦にはない。
もちろん出兵前には年払いの賄いをいただけるはずだけど、李書文の記憶が「給金なんてものは実際に手にするまでは当てにするな」と囁くので、それを予算としては計上してない。師匠もこの件に関して同じように考えていた。
カルルやメルさんあたりは当てにして武具の新調をするんだとか浮かれていたけど、はっきり釘は刺しておく。ついでにはっきりと文書にして、もしそんなことのために借金をしても、リーシア砦からは一切肩代わりしないことをみんなの前で読み上げ、手渡しておく。当然、控えの書類はそれぞれ一通作ってもっておく。
二人ともしょんぼりしているけれど、当然これは領民全員にも適用されることは念押ししておく。
武具の手入れを少し夜更かしをしてしておく。槍の穂先はもちろん、剣の刃、切っ先、鎬。兜と鎖帷子、盾も大事だ。
剣はカルルのものと一緒に、研ぎ直す。リーシアはどうしても槍を使うことが多いので、どうしてもそれほど傷まない。
兜はやはり少し傷みがあるけれども、こればかりはリーシアたちにはどうにもできない。鎖帷子のほつれについては、きちんと輪を留め直す。
農具の手入れもあることを考えると、そのうちに鍛治師をどこかから雇わないといけないかもしれない・・・。流石にフォートさんを招くには砦はまだ小さすぎる・・・。
まだまだ足りないことが多すぎて、ついため息をついてしまう。
砦の経営はもちろんだけれども、出兵についても考えなくてはいけない。
まず、リーシアは外せまい。となると、当然カルルは留守居役だ。カルルを留守居にするなら、お目付役には師匠に居てもらわなくてはいけないなぁ。フィルさんでは流石にカルルが何かをやらかした時にどうにもできない。
と、フィルさんがリーシアと一緒に出征することになる。メルさんは当然出征するから、リーシア以外は男ばかりか・・・。これで側仕えに男性を連れて行くのもなんだか気まずい。
ここはクリムヘルトを側仕えにするか。
と、ここまでの案を練ったところで皆に伝えると、スキュラからおずおずと異論が出た。
「あのう、よろしいでしょうか」
「いいよ」
「それでは私が一人で皆さんのいろいろを面倒見ることになるので、はっきり申し上げて手が回らないのですが・・・」
「!?確かに!」
これは迂闊だった。カルル、師匠、シギベルト、ギーゼルヘルと4人の面倒をスキュラ一人で面倒見るのは大変だ。フィルさんのいない師匠なんて、生活力が皆無だし。
「なんか失礼なことを考えた奴がいるな」
師匠がたまに鋭い。フィルさんが珍しく笑いを噛み殺していて、師匠に怒鳴られてる。
「それならギーゼルヘルも従卒として出兵するか」
「少し守りが心配だけど、仕方ないか」とはメルさん。
スキュラも少し安堵したようだ。出征メンバーの方はフィルさんもメルさんもある程度生活力があるので、クリムヘルト一人でなんとかなる。
予備の盾、ワゴンも持っていくか。と、グリフォンが騒ぎ出す。そうだそうだ。
「ああ、ピーちゃん、キューちゃんも手柄を上げたいんだね。
「でも、2羽とも連れて行かせるわけにはいかないな。砦の守りにグリフォンの偵察は欠かせない」とは師匠の弁。
「そうだね。とするならば、今回はキューちゃんを連れて行こう。ピーちゃんは砦の周りをちゃんと警戒してね」
元気のいい、2羽の返事で背後の憂いは消え去る。
やっぱりこういうことは一人で考えていても埒が空かない。皮職人でも3人いれば諸葛亮に勝てるとよくいう。これはそういうことだろう。
・・・って、ここでそういう話をしても「諸葛亮って誰?」にしかならないか・・・。まあいいや。
 




