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初恋  作者: 結城柚月
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第17話「ステージ」

「じゃあ私部活の準備行くから」

「うん。ステージ楽しみにしてるね」


 もうすぐ腕時計は正午を差そうとしていた。吹奏楽部である杏子はお昼休憩の後すぐに体育館でステージがある。なんとソロを任されたらしい。これは見なければ。

 杏子と別れた私は、その後もフラフラと校内を散策した。私たちの他にも教室内展示をしているクラスはあり、どのクラスも負けず劣らずのクオリティだった。

 私の学校は棟が三つあり、主にクラス教室があるA棟、生物準備室など移動教室のB棟、音楽室や調理室などがあるC棟がある。ちなみにどれも四階建てだ。授業では行ったことがない教室でもいろんな部活が展示を行っていたので、少し冒険した気分になった。

 いろいろな場所を巡った。だけど、二人には会えなかった。会えたところできっと心が息苦しくなるだけだろうけれど。

 今頃康太は何やってるんだろう。富永さんとちゃんとデート堪能してるかな。まさか、独りぼっちになんてさせてないよね。だったら私は許さない。もしそうだとしたらグーで殴ってやろう。

 そろそろ吹奏楽部のステージだ。私は体育館へと向かった。

 うちの吹奏楽部は特に強豪というわけではないらしい。私は音楽のことはさっぱりだけど、杏子がそういうのだからそうなのだろう。

 体育館はまだ人はまばらだった。午後のステージ開演五分前なのだから、当然といえばそうなのかもしれないが、少し寂しい気もした。

 ぞろぞろと吹奏楽部員がステージに上がってくる。ステージ、といってもベニヤ板で作った簡易的なものだけれど。全員のセッティングが完了すると、顧問の先生が指揮棒を振る。

 演奏が始まった。一曲目は今年の頭に流行ったドラマの主題歌だった。丁度受験勉強のピークだったから、ドラマの内容はほとんど知らないけれど、主題歌はよく流れていたから知っている。周囲が手拍子をするので、釣られて私も手拍子をした。なんだか少し心が弾むようだ。

 楽しい雰囲気の一曲目が終わると、トランペットの子がマイクを握る。たどたどしく読み上げられるそれは、曲目の説明だった。なるほど、「希望の歌」というらしい。まさに希望溢れる曲調だったと思う。まあ私の未来には希望なんてものはないのだけれど。

 ふへへ、と心の中で哀しく笑うと、今度は別の子がマイクを握る。アルトサックス、だっけ。名前はよく覚えていないけれど、そんな楽器を持った生徒だった。次の曲はいろんな楽器のソロに注目してほしい、だそうだ。なるほど、次に杏子の出番か。

 二曲目はさっきと打って変わってバラード調の音楽だった。様々な楽器が順々にソロを演奏していく。そして、杏子の番が来た。彼女のクラリネット。上手いかどうかはよくわからないけれど、私は杏子の奏でる音は好きだ。ソロが終わり、会場から拍手が送られた。私も誰よりも拍手を送った。

 すごいな、杏子。それに比べて私ときたら……。

 はあ、と溜息をついた。もう吹奏楽部の演奏は聞こえない。ずっと自己嫌悪に陥る。どこでおかしくなっちゃったのかなあ、私。

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