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初恋  作者: 結城柚月
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第15話「文化祭」

 文化祭当日。私はいつもより早く学校に向かった。今日は一人だ。いつもの時間だったら、もしかしたら康太が迎えに来てくれるかもしれない。だけど康太には富永さんという素敵な人がいる。だから私は康太と一緒に登校するわけにはいかない。富永さんに申し訳ない。

 学校に着くと、鞄を生物準備室に置き、自分たちの教室へと向かった。今日は教室内全てが展示作品になっているため、鞄を教室内に持ち込むことができない。廊下に出された机と椅子をよけながら私は教室の中に入った。


「おっは」


 既に来ていた杏子が手を振った。私も反射的に手を振り返す。


「今日元気なさげだけど、なんかあった?」

「別に。なんでもないよ」

「そうは見えないけど」


 さすが鋭い。隠し事なんて通用できるはずもないとわかっているけど、それでもこんなところで「失恋した」なんてバレてしまうのは恥ずかしい。

 杏子はまだ疑っているのか、じっと見つめながらグルグルと私の周りを旋回する。


「な、何?」

「いやあ? なんとなく、嘘ついてるなーって」


 バレてるし。これはもう言い寄られるのも時間の問題だ。はあ、と私は溜息をついて、私は杏子を教室の外へと連れて行った。


「で、実際はどうなの?」

「何もなかった、ことは、ない」

「やっぱり。浜本くん関係でしょ」


 どうしてわかるんだろう。杏子には本当に心の隅まで覗かれている気がする。今考えていることもお見通しだったのか、京子はプッと吹き出した。


「なんでわかったんだ、って思ってるでしょ」

「そりゃまあ、そうだけど」

「わかるよ。だって、めっちゃ顔に出てるもん。。そういう空気が」


 どうやら杏子は空気で判断しているらしい。そんな空気なんて見ただけじゃわからない。やっぱりこれは杏子の特殊能力なのだろう。

 杏子はニッと笑って私を見た。


「ま、何があったか言いたくないだろうけど」

 

 どうやらそこまでお見通しだ。逆に、読めない空気を出す人なんているのだろうか。私には空気そのものが見えていないからどういったものかもわからないけれど。


「話したくなったらいつでも言って。一人で抱え込むよりはずっと楽になれると思うから。まあ私なんかが力になれるかはわかんないけどさ」

「うん。ありがと、杏子」


 なんだかんだ杏子はいい奴だ。康太のことも今は出来れば触れてほしくなかったし、杏子もそれを察したのか無理に質問はしてこなかった。そういう線引きがとにかく上手い。


「じゃあ今日は一緒に文化祭回ってもらおうかな」

「何か奢ってくれるの?」

「なんでそうなるの」


 そうおどける杏子にクスリと笑ってしまった。私もこんな風にあっけらかんとした性格だったらな、と思ってしまう。

よし、今日は屋台のお店全部回ろう。もうヤケだ。そのせいで太ったとしても知るか。全部康太が悪い。そう思いながら教室の中に戻ろうとしたまさにその時、たまたまこのタイミングでやってきた康太と目が合ってしまった。富永さんは一緒じゃない。今朝黙って先に行ってしまったこと、それに昨日のこともあって少し気まずい。


「おはよ、康太……」

「おう、おはよう」


 会話はそれだけだった。康太はいつも通りの様子だった。それはそれでなんだか腑に落ちない。そもそも康太は富永さんと一緒じゃないのか。恋人同士なんだからもう一緒に登校しているものだと思っていたけれど……付き合って間もない上に家が真反対だからさすがにないか。

 隣の方を見ると、杏子はニヤニヤと私の顔を窺っていた。いろいろと察したのだろう。その顔が琴線に触れるいやらしさだったのでグッとほっぺたをつねってやった。今日は杏子にいろいろ奢ってもらおう。

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