悪魔の庭3 Sleep
使用お題「鞠」
ノート運びは、社会科教諭である古谷のいる社会科準備室までだと言われた。補習会場である会議室は一階で職員室の向かい。昇降口まで近いは近いが、三階にある社会科準備室までは大分遠かった。
補習参加人数は四十人ほど。四十人分のノートを抱えながら彰は溜め息を吐いた。
「あり得ねぇ」
「いやぁ、ごめんね」
毒づく彰に古賀は快活な笑いを向ける。
「この学校に来たばっかりで、社会科準備室の場所がよく分かってなくってさ。君がいて助かった」
・・・
つまり、そこで見つけた都合の良いカモが自分だった、ということか。我が身の不運を呪いながら、彰はもはや毒を吐く気概も残っていなかった。
「先生、さよーならー」
「はい、さようなら」
そんな風に声をかけ、嬉しそうにすれ違っていく女子生徒についつい忌々しい目線を向ける。
「本橋君。顔、顔」
・・・
「すっごい不満が顔に出てるよ」
「ああ、そうっすか」
誰のせいだと思ってるんだよ。そう毒づいている彰の後ろで、古賀は先程すれ違った女子生徒の方を見ていた。
「そう言えば本橋君。あの鞠のストラップ、今女子の間で流行ってるの?」
「へ?」
そう言われれば、確かにここ最近女子が鞠のストラップを付けているのを頻繁に目にするような気がする。
「・・・ああー。言われればそうっすね」
「男子の間では葉っぱのヤツが多いみたいだけど。そういうのって、どこで売ってるのかな」
「さ、さぁ」
何なんだ、コイツ
質問の意図を図りかねている間に、社会科準備室は目前に迫っていた。
「ありがとう、本橋君。おかげで助かったよ」
「ドウイタシマシテ」
どうしても素直にうなずけず、それだけ口にして足早に踵を返す。
えらいめに遭った
さっさと帰ろう。そんな疲れと共に会議室の扉を開けると、自分の荷物と共に誰かが残っていることに気付く。
「よぉ、彰。相っ変わらず要領悪い真似してんのな」
「浅間!」
いつもの補習仲間の姿に、嬉しいような苛立つような微妙な気分が湧き上がった。
つづく