悪魔の庭2 Sleep
使用お題 「悪魔」
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私立明の里学園は割と偏差値の低い進学校だ。何でもアメリカによくある『入るのは簡単だが卒業するのが難しい』大学のような教育方針らしく、その面倒見の良さで毎年ちらほらと難関大や国立の合格者を出す。私立のためかかる費用は莫大らしいが、その分補習や部活動なども充実していた。
そんな『落ちこぼれを出さない』方針の明の里学園には、もともと勉強意欲などなく進学希望でもないが周囲の期待や親の希望で入ってくる生徒も多い。本橋彰も、もれなくそんな生徒の一人だった。
「あー、たりぃ」
「・・・彰、聞こえるぞ」
補習の時間、後ろの席からそんな溜め息交じりの声が聞こえる。クラスメイトの藤だ。中学時代不登校気味だったという彼は、それでも将来天文学関係の仕事に就きたいということでこの学校を選んだらしいが、親の見栄のためにこんな自由のない学校に放り込まれた彰にとっては苦痛でしかない。しかも、今日に限っていつもの補習仲間は何故が補習を免れた。一人補習となった彰には、不満を口にするくらいしかストレス発散の術はなかった。
「だいたい、テストで60点いかなかったら補習、って。それは教え方に問題があるせいじゃねぇの。生徒に責任転嫁してんじゃねぇよ」
それだけ言うと、溜め息を吐く。後ろから藤が慌てた声を出したような気がしたが、それを問い質す前に教師らしき人物の影が自分の席に差したことに気付いた。
げ
にっこり、と称されそうな笑みを浮かべて彰の方を見ているのは、確かこの間紹介された産休代替の古賀とかいう英語教師だ。
「君の言い分はもっともだけどね。脳には『好き・嫌い』を認識する扁桃体っていう部分があって、それは記憶を司る海馬の隣なんだ。だから、君が勉強を『嫌だ』と考えている限り、僕たち教師がいくら手を尽くしても内容は入ってこない」
「・・・それは、興味を持てる話をしてくれないそっちが悪いんじゃないっすか?」
「それは一理あるけど、初めから聞く気のない生徒にそれは適用しないんじゃないかな」
「なっ!」
図星を突かれて思わず立ち上がるが、古賀はそんな彰に動じた様子も見せず肩を竦める。
「ねぇ、本橋君。歴史の古谷先生も、初めから寝ている君には手を焼いていたよ?」
そんなことを言われてしまえば、返す言葉は見つからない。結局、古賀の言うことに逆らえず、彰は補習後のノート運びまで約束させられた。
「あんの悪魔」
「・・・いや、普通に考えて彰が悪いだろ」
毒づく彰の横で、藤はそう結論を下すとそそくさと教室から出て行った。
つづく