緊急生徒会会議
ここは白薔薇学園生徒会室。
舞踏会の中締めの挨拶を終えたソフィアが現れた
「皆様。お待たせ致しました。
アイリス様の事を聞き急ぎ参りました。
仔細を教えてくださいますか?」
ソフィアが着座すると生徒会長のアーサーは
「ソフィア副会長を待っていたのだ。
これから〈緊急生徒会会議〉を始める。
案件は皆の知っての通り、アイリス伯爵令嬢が小ホール監禁のうえ複数に暴行され流血のケガを負った。
それだけではない。
衣裳のドレスも破かれた。
今から証拠を出す」
護衛の騎士見習いリュードがドレスの切れ端と、アイリスの血の付いた布地を机に広げた
「……なんてこと」
エリザベスが険しい顔で声を洩らす。
ここにいる面々も布地の夥しい血痕を見て、顔を曇らす。傷は治癒の魔石で治療して塞がったと聞いたが、傷は治っても流した血まで回復はしない。
いまここ生徒会室には生徒会長のアーサーを初め、副会長のレインとソフィア。
他役員としてエリザベス。フォークライ。レシェルド。
サマンサ。サラサーラなどが名を連ねる。
他にも何人か同席している。
誰もが王族か子爵以上の上級貴族だ。
生徒会には様々な役割があるが、生徒間のいざこざや争いの調停も行う。
規定があればそれに従い罰則を科す。
それ以上は白薔薇学園首脳部の大人達に一任する。
いくら王太子で生徒会長だからといって断罪イベントよろしく、死刑や国外追放などの権限はない。
だが詳細は聞かねばならない。
サマンサとサラサーラの両侯爵令嬢。
本来ならば生徒会役員の二人は仲裁する立場の人間。
それが率先して集団暴行等という問題を起こしたのだ。
見本となる者がこれでは示しが付かない
「では。サマンサ役員。
君達が小ホールでアイリス嬢にしたこと、話して貰おうか」
アーサーの恐ろしく低い声。
サマンサは小ホールでの出来事を皆に話した。
サラサーラ嬢はオドオド怯えて、役にたたない。
サマンサは〈アイリス断罪〉のあらましを語り終えた
「サマンサ役員。普段は冷静沈着な君が何故、アイリス嬢に暴行など加えたのだい?
君は話し合いをするつもりだったのだろう?
君らしくもない」
「それは……」
アーサーの問に一瞬躊躇したが、サマンサは観念して
「フォークライ様を侮辱したからです」
「私をかい?」
フォークライは驚いた。まさか自分の名前が出るとは思わなかったのだ
「はい。アイリス嬢は……アイリス嬢はフォークライ様とのダンスを罰ゲームと罵ったのです!
罰ゲームだから仕方ないと馬鹿にしたのです!
わたくしの婚約者とのダンスを罰ゲームなどと!
こんな屈辱、わたくしは許せませんでした!
それで思わず平手打ちを……」
「罰ゲームだぞ」
「えっ?」
フォークライの一言にサマンサが固まる
「あれは……アーサー殿下とつまらぬゲームで賭けをしてな、負けたのだ。
それで罰ゲームとして『嫌いな相手とダンスをする』と命令を受けてな……私は馬鹿は嫌いだ」
「それがアイリス様……なのですか?
嘘です!ダンスの間ずっと言葉を交わして楽しそうでございました。それに踊り終えた後であんなに顔を赤らめて見つめあって……」
「ご!誤解だ」
フォークライは珍しく慌てて
「あれはずっとお互いに文句を言い合っていたのだ!
アイツ!私のこと『頭でっかちの眼鏡野郎』と言う女だぞ!こっちも言い返さないとな!それで売り言葉に買い言葉……ずっと売り買いしていたのだ。
最後も!見詰め合ってなどいない、睨み合っていたのだ」
「そんな……でもわたくしレシェルド様から聞きました!
アイリス様にお菓子を毎日のように貢いでいると!
それはフォークライ様がアイリス様に好意を持っている証では?」
サマンサの問い掛けに、フォークライは思わず目を逸らす。モゴモゴと言いよどんでいる
「もしかして!」
エリザベスがハッとして言葉を続けた
「それはアイリス様ではなく、小さな子供の人格のアリス様に差し上げたのではなくて?」
「く……そうだ。あまりに美味しそうにお菓子を食べるのでな。つい餌付け……喜ばしてあげたくなったのだ。
殿下に拘束されて公務を手伝わされていたからな、癒しが欲しかった」
「公務?フォークライ様はアイリス様の勉学のお手伝いをしていらしたのでは?」
サマンサは思わず聞いた。フォークライは気まずそうに言い淀む。それを見たアーサーは
「済まないサマンサ嬢。ボクの我が儘だった。
公務が溜まってな、フォークライとレシェルドには手伝って貰っていたのだ。
だが体裁が悪いので〈アイリス嬢に勉学を教える〉とカモフラージュしていたのだ。
勉学はジェイドが教えていた」
「では何故アイリス様は、あの場でその事言わなかったのですか?」
アーサーは表情を暗くして
「アイリスには口止めを頼んだのだ。
だから君に本当の事を言えなかったのだろう」
それを聞いたサマンサは絶句していた。
それから俯き、下唇を噛んだ
「わたくしは何て愚かだったのでしょう。
アイリス様はわたくしに言いました。
『同じ白薔薇学園にいるのだから、本人に聞けばいいじゃない?』と真にそうでございます。
わたくしが変な意地を張らずに素直にフォークライ様に訊ねていれば、このような事にならずに済んだと思います。
『婚姻前から冷えきっているのか』
そのアイリス様にそう言われました。
フォークライ様との間に冷たい氷の垣根をこしらえていたのは、わたくしでした。
あの時、思わず激昂してアイリス様を扇で叩いてしまいました。
今は……わたくしの頭を叩きたい気分でございます」
そしてサマンサは一筋の涙を流した
「わたくしはただ……アイリス様に謝罪したいです」
次回はね。
ちょっと出張中のあの人が!
爆弾投下回だぞ!




