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この手を放してはいけない


わたしは楓。


涼風楓。


日本の女子高生だった。


事故で人生を終えて、この異世界で新たな命を授かった。


アイリス・ユークラリス伯爵令嬢。


ピンクブロンドの髪とアメジストのような瞳がトレードマークの美少女。

でも以前の人格も残っていた。


─それがアリス


わたしたちは二つの人格で一人のアイリスだった。


わたしは異世界に戸惑いながらも、弟(養子)のアランに恋をした。


紆余曲折あったけど相思相愛になった。

わたしもアリスもアランが大好き!


白薔薇学園へ通学した。


いきなり級長任されて困ったけど、何とかボッチなアイリスから卒業したくて頑張った。


朝クラスのみんなに挨拶したり。

出来るだけ明るく振る舞ったり。

同性のクラスの女子には積極的に声をかけた。



そして漸く仲良くなれた……気がしてた



乙女ゲームで悪役令嬢のエリザベスの身に起きる筈の【断罪イベント】が、何故かヒロインのわたしに対して執行された。


そしてそこで知らされた。


親友のエイミア以外の貴族のクラスの女子は、わたしを裏切っていた



─ううん。違う



初めから牙を向いていた……。


笑顔の裏側では牙を研ぎ澄まし、わたしの動向を悪口に乗せてせっせとスパイしてた。

仲良くなれた気がしてた。

わたしだけそう思っていた。


お友達少しづつ増やして行って『いい感じ♪』と浮かれていた


─全部無駄だった


夢幻(ゆめまぼろし)だった



クラスの女子に騙され小ホールへ連れていかれた。


そして彼女達に掴まれたまま、同級生の女子に扇で叩かれた。


叩かれるたびわたしの心は壊れて闇で覆われていった



─もうどうでもいい


─もうどうにでもなれ



涙が自然にこぼれていた。

わたしはどんどん心を黒く染めた。


いつの間にかアリスの人格に入れ替わっていた。


アリスの泣き叫ぶ声が聞こえた。


でもそれはすごく遠い所。


アリスの声も何時しか聞こえなくなった。



わたしは一人、闇の中で膝を抱えて踞っていた。



──暗闇の中、光が射した──



わたしは背中に暖かみを感じた。


フワッとジャケットを掛けられていた



「もう大丈夫です。

ここから助けます。

ボクは貴方の味方です」



目の前に手を差しのべられていた。


その手だけが闇の中で見えていた


わたしはその手を取った。


その手は温かく、わたしの心も暖かくなった



─この手を離してはいけない



立ち上がったわたしは、腕にすがり付いた。

ぎゅっっと腕を抱いた。


ゴツゴツしているのに柔らかい腕。


彼はわたしをあの地獄から連れ出してくれた。


まだ世界は闇に覆われたまま。

わたしと彼の周りだけが、ぼーっと光っていた。


わたしは彼の腕にしがみつき、ゆっくりと廊下を歩く。


身体が小刻みに震え、涙が止まらない。



わたしはずっと俯いたまま歩いた。

彼の顔を知らない。

名前も知らない。


ただわたしを助けてくれた



「アイリス様!」


エイミアの声が聞こえた


「アイリス様!大丈夫ですか?

あなた!アイリス様に何をしたの!」


フェリス様の声が聞こえる。


『わたしは大丈夫。彼が助けてくれたの』


わたしはそう答ようとした。

でも口から漏れたのは


─アー……アー


という音だけだった。

言葉にならなかった



「このお嬢様は大勢のご令嬢に囲まれて、辱しめを受けていました。

たまたま通り掛かった時、悲鳴が聞こえたので助け出したのです。

ドレスが破かれています。

ジャケットはそのままでいいので、彼女を連れて行ってくれますか?」


「分かりました。

さっ。アイリス様。私達が自室へお送りいたします」


エイミアとフィリスが優しく肩を抱いた。

彼と引き剥がされそうになり、わたしは掴んだ腕をギュッとして首を振った


アーアー


「言葉がでないのですか?アイリス様」

「もしかして失語症でしょうか?

……ショックで声が出なくなる事があると聞きます。

あの……お名前お聞きしても?」

「リュウです。

リュウ・ホールンといいます」


「ではリュウ様。すみませんが私達といっしょに来て頂けませんか?」


わたしはまた歩きだした。

リュウと呼ばれた男の腕にすがったまま……。

足元しか見えていない。

けれどフェリス様が先導して、エイミア様が寄り添ってくれているのが分かった


「わたし先に詰所に行って赤薔薇騎士様にアイリス様の侍女を呼んできて貰います。

後は頼みますエイミア」

「お任せくださいフェリス様」


フェリスの駆け出す音が聞こえた。

リュウ様は優しく、わたしの歩くペースに合わせてくれた。


階段を幾つか上り、気がついたら赤薔薇騎士のお姉様がわたしの顔を覗き込んでいた


「事情は聞きましたアイリス様。間もなくリリとララが参ります」


わたしの涙は止まったけど、きっと酷い顔をしているのだろう

直ぐにリリとララがきた


「お嬢様!さっ。お部屋に帰りましょう」

「お嬢ー」


わたしはイヤイヤ首を振った。

リュウと離れたくない。

わたしの味方。

あの場所から連れ出してくれた唯一の味方。


それにリュウとわたし以外は、まだ闇だから……。

闇は恐ろしい。




この(リュウ)から離れたくないない。

















次回はいよいよだね!


長かったよ!

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