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これを運命と呼ばず何と呼ぼう


アイリスが帰った王太子執務室。


アーサー王太子がマクシミリアン公子ことフォークライ

に聞く


「アイリスの相手が分かったのか?」


アーサーは国王との密談でアイリスの将来の伴侶となるやもしれない人物の話を聞いた。

それを元にフォークライにその人物を探らせていた。


「いや。分からない。ただ……」

「ただ……なんだ?」


「可能性が高い人物はいる」

「誰だ?」


思わずアーサーは身を乗り出す。

マクシミリアンはアーサーの隣にいるジェイドをチラッと見る


「心配するなフォークライ。

ジェイドは口が固い。こじ開けるのは大変だぞ。

アイリスの相手……誰なんだ?」

「おそらくオーギュスト帝国第三王子……」


「第三王子?」


オーギュスト帝国は海を挟んで向こう側にある大国。

一時期内乱で国内が疲弊したが、今は持ち直しているという。

交易はしているが、お互い形ばかりの外交使節団を送り合う仲で、両国貴族間の婚姻もない。

余り王族同士の交流はない。


ただ帝国側からの招待でフォラリス王国の第二王子レインと第三王子マルコが留学生として、オーギュスト帝国に滞在している。


その帝国の第三皇子がアイリスと何の接点があるのだろうか?


「第三皇子は来年1月に公式にこのフォラリス王国に留学する予定だ。

ただ1月は冬季休暇で学園は休みとなるので、実際は2月から通うだろう」


今までもオーギュスト帝国からの留学生は何人かいたが、王族は初めてだ。

事前にフォラリス王国から王族が帝国に留学したのも、帝国が王族を留学しやすい環境を作ったのだろう。

しかし疑問も残る


「たかが第三皇子ひとりに、こちらは二人の王子を送り込んだ。お互い隠れた人質であろうが、釣り合わないではないか?

なぜ帝国にそれほど気をつかう?」


「いや。釣り合いは十分とれている。

第三皇子を称しているが、実際は帝国の跡取りらしい。

この留学が終われば皇太子になるという話だ」


─なんだそれは?


アーサーは唸る


「なぜそんな回りくどいやり方をする?」

「帝国法では皇帝の後継者たる皇太子の肩書きを持つものは、他国に留学できない。第二皇子も同様だ」


「つまり……このフォラリス王国に留学するには第三皇子の肩書きが必要という訳か……」


門外不出の皇帝の後継者が、わざわざ身分を下げて白薔薇学園に留学する。

もしそれが本当にアイリスが目当てならば、アイリスにはそんな価値があるのか?

見た目はいいが、頭はお世辞にも良いとは言えない。

身分も伯爵令嬢だし娶るにも皇帝には釣り合わず、せいぜい側室だろう。

正妃にもなれない女に、わざわざ何で会いに来るのだ?


「フォークライ。

アイリスとその皇子になにか接点はあるのか?

わざわざ側室に会いに数ヵ月も無駄にしないだろう」


第三皇子が本来の皇太子ならば、数ヵ月でいなくなるだろう。後継者をいつまでも他国に置く理由がない


「接点はないだろう。

もしあれば、ユークラリス伯爵家にも動きがあるはずだ。それにアランはアイリスが学園在学中にパートナーが見つからない場合は、アイリスと婚姻を結ぶ道もあると聞いたらしい。

以前アイリスにも確かめたが、彼女もそのつもりのようだ。教室内でダリルともめた時も、皆の前でアランに将来をかけて恩返しすると告げたようだ」


アーサーはその話は知っている。

だからアランを引き剥がしたのだ。

アランが留学して早二ヶ月。

もう一ヶ月とせずに帰って来る。

なのにアーサーとアイリスの距離は平行線のままだ。

見かけによらずアイリスは意外に図太く、へこたれない。

今日もあの女滴しのレシェルドの色目を、歯牙にもかけずあしらっていた。

それに馬鹿な話だか、レシェルドは邪険にされればされるほどアイリスに夢中になっているようだ。

来るものはwelcomeで受け入れ、去るものは追わない男が、アイリスに纏わりつき他の令嬢を寄せ付けない。


アイリスの嫌いなレシェルドにダンスレッスンさせ、相対的に紳士的なアーサーに振り向かせる作戦だった。

その作戦は当たり、アーサーには恋心は抱かずとも懐き出したアイリスだったのに、レシェルドが絆されライバルが増えた。

ただアイリスがレシェルドを本気で嫌っているため、レシェルドを泳がせている。


話が脱線した。


「なぜ帝国の皇子がアイリスに執着するのだ?

理由が分からない。

わざわざ未來の皇帝が留学するのだ。

アイリス目当てではなく、他にすべき事があるのではないか?

我が国との友好を深めたり、たかが伯爵令嬢ではなく王族や公爵家と婚姻を結ぶこともあるのではないか?

まだフィアンセが決まっていない姫もいるだろう」


これはある意味アーサーの願いでもある。

もし未来の皇帝が求めたならば、たかが伯爵令嬢たるアイリスに断る術はない。

友好を深めるならば、帝国側の要請は断れない。

王族が嫁ぐとなれば国家をあげての派手な演出も必要だろうが、伯爵家ともなればその必要もない。


だからこそ急がなければならない。

帝国の皇子に拐われる前に、アイリスを落とさなければなれない


「帝国にはこんな伝説があるらしい……」


フォークライは語りだした。

マクシミリアン公爵家には宰相家との役割から、様々な国家から知識人を雇用している。

彼らを通して外国の情報を得ているのだ。


当然仮想敵国たるオーギュスト帝国出身者も数人マクシミリアン公爵の側近にいる。

彼らにアイリス嬢の話をした時、皆一様に納得した顔をしたという。

そして彼らが語るのは1つの伝説

【聖刻の乙女】

帝国の危機に現れる姫で、何処からともなく現れていつの間にか正妃となる。

彼女が現れるのは危機の前触れであり、その後の豊穣を約束する者であるという。


その【聖刻の乙女】の特徴がピンクブロンドの髪にアメジストのような紫の瞳。目の覚めるような美貌。

全てがアイリス・ユークラリスに一致する


「だがフォークライよ。アイリスの特徴ある姿は他にもいるだろう?

それに母親のシェレイラ伯爵夫人も同じような容姿のはずだが、なぜ彼女は選ばれなかったのだ?」


ピンクブロンドの髪にアメジストの瞳。確かに珍しいが、国中探せば一人や二人くらい見つかるだろう。

わざわざ他国まで探しに来る訳がない。

それにずっとアイリスは白薔薇学園に通っていた。

今更会いにくるには論理が弱い気がする


「予兆があったらしい。

こんこんと涌き出る帝国皇宮中庭の泉が一夜で涸れ、隣の聖木に百年ぶりに純白の花が咲いた。

それが今年のことだ。

このことが帝国では【聖刻の乙女】復活のシルシとされ、大きく議論されたらしい」


「それならアイリスは関係無いのではないか?

アイリスはもう15歳だ。

シルシが今年ならば【聖刻の乙女】がアイリスではないだろう?」


「それがそうでもない……泉が涸れたのが8月7日。

そして花が咲いたのが10日後の8月16日だ」

「それがどうしたのだ?

アイリスと何の関係がある?」


フォークライは少し考え込み、それからアーサーの目を見て告げた


「アイリスが事故で意識不明になった日が彼女の誕生日の8月7日。そして目覚めたのが8月16日だ。

そして目覚めと共に新たな人格が備わっていた。

これを偶然と呼ぶには、余りにも出来過ぎてはいないかい?」


フォークライはアーサーの目を覗き込み


「我が友アーサーよ。

これを運命と呼ばず何と呼ぼう」


そう言葉を紡ぎ微笑んだ。













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