もしかして日本人!
わたしアイリス・ユークラリスこと涼風楓は久しぶりに心の底から笑い、楽しんだ。
好きな人と何の気兼ねなく……結構お忍びのご貴族の学園生がいますから、明け透けには出来かねますけど……それでもすんごく楽しい!
今、三組は別れてべつ行動している。そして食事時にまた落ち合う。
支払いはアランというか会計を預かっているティークが担当するけど、ユークラリス伯爵家が日頃のお礼も兼ねて負担します。
リリもララも御給金を貰っているけど、将来の為に貯金としてほとんどプールしているみたい。
そして意外な事に今回で学年三年目だというのに、この商店街に来るのは初めてなのだそうです。
その後言葉を濁したけど、なんとなく分かるよ。
アリスは世話の焼ける子だから、外出も儘ならなかったのだよね。
そういえば……アリス。この頃あまり出現しない。
昨日もクリスタル殿下のお菓子に釣られて食べてたけど、1日1回出てくるかどうか……。
ほとんど精霊界?とやらに行きずっぱりだと思う。
今日も気配がない。
─パンケーキに釣られないアリスなんて!
なんかいるとうるさいけど、いないと寂しい。
なんかお土産買ってあげよう。
そういえば今日わたし帽子を被っているけど、昨日試着していた時にたまたま出てきて
「帽子嫌い!」
なんてぶん投げようとするから、心の中でわたしお願いしたの
『お願いアリス。帽子取らないで!
明日アランやみんなで街へいくの。もし帽子を被っていなきゃ、わたしだってバレて目立っちゃう!
アランともデートなんだよ。
楓一生のお願い』
なんて頼んだら
「うんわかった。我慢する」
むくれた顔で約束してくれた。
よほど嫌いらしい。
鏡に映っている、頬をぷくっと膨らませた顔なんて!
ちょっと可愛い。
そして明日……今日のことなんだけど……はほとんど精霊界に行きっぱなしなんだって、そして毎日翼の生えた馬に乗って色んなところ行っているんだって……アリスだけ異世界ファンタジーしてる。
今ねわたしは堂々とアランの腕に絡みつき、ウィンドウショッピングしている。冷やかしだけどね
─凄く楽しい!!
でもちょくちょく買い食いはしている。
テイクアウトで小袋に入ったクッキーやら何やら、色々なカフェやお店で店頭に売っている。
それを買って食べながら歩く。
─すごいハシタナイ
貴族ではね。屋敷では絶対やらない。
でもここではみんなやっている。何人か学園生のご貴族を見たよ。キャピキャピして女の子同士お菓子の取り替えっ子したりね……。
庶民的な西通りには屋台が結構あるらしいけど、今日は行かない。
そしてセレブ御用達の東通りにも、もちろん行かない!
だってクリスタルに遭遇するかもしれないでしょう?
やだよね。
折角アランとデート楽しんでいるのに、出くわしたら災難だよ!
そんなこんなでもうすぐお昼です。
目的のお店に向かってみると、すごい!ここも行列が出来ている!
行列から手を振っている人がいる。
─フェリスさんだ!
朝会ったソフィア様付きの女の子二人も一緒だ。
わたしは思わず駆け出した。
すると突然アリスが出てきて
「やっぱり帽子嫌い!」
と鍔の大きな帽子をぶん投げた!
ピンクの髪が露になり、わたしは思わず頭を押さえた。
─はい。無意味でした
帽子を押さえたつもりだったのですよ。すごいタイムラグがありましたけど……それを見てフェリスさん達笑っている。
だって端からみたら自分で帽子飛ばして、頭抱えて、今恥ずかしくて顔を覆って……
─なんかみんなに見られてる
そこへアランがやって来て、拾ったら帽子を被せてくれた。その前に耳元で
「姉様。後で甘いお菓子あげますから、帽子は我慢してください」
なんて囁いて
「うん分かった。絶対だよ!」
アリスは結構大きな声で叫んで消えた
─もう!死ぬほど恥ずかしい!
学園では以前のアイリスを新入生以外は知っているから、ある程度覚悟はしている。
けれどここは色んな年代の人々がいる。
一般の人々がほとんどだ。
沢山の視線が集まり耐えきれなくなって、思わず顔を覆って蹲ってしまった
「カエデ大丈夫だから……」
アランはわたしにしか聞こえない小さな声で励ましてくれた。そしてわたしを心配してフェリス様達が近くに来てくれた!
─折角並んでいたのに……ごめんなさい。
「アイリス様。大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます。
急にもうひとつの人格が出て来てビックリしてしまって……帽子が嫌いなんですアリス」
わたしはアランとフェリス様に抱えられて立ち上がった。
─うーホントに恥い……。
そこへリリとララがお互いのペアとやって来た。
フェリス様達がいる事情を話すと、ティークは直ぐお店の店員さんと話し合い、戻ってくるとアランの耳元で何やら告げた。アランはそれを受けて
「フェリス様。よろしかったら二階で同席致しませんか?従者が席を押さえてくれました。
お三方共貴族ですので、問題ないそうです」
流石に気が回り、仕事が早いぞティーク!
それにわたしはフェリス様しか知らないけど、他の二人も知っているってことよね?
リリも何処ぞの誰それと教えてくれたし……。
リリといいティークといい、ホント優秀
「でもアイリス様……せっかくのデートなのに邪魔したら……」
「是非ご一緒しましょうフェリス様。わたくしもアランと二人きりで食事するわけでもありませんし、賑やかで楽しそうです。それにわたくしあまり女子のお友達がいなくて……その折角ですからお友達になれたらな。と思いまして……」
フェリス様と二人のお嬢様は顔を見合わせて
「是非!わたしたちもアイリス様とお友達になれたらな~と常日頃から話していまして……」
「では、ご一緒することでよろしいですね」
アランの微笑みに女子四人は顔を赤らめる。
わたしも入っているよ。
そしてみんなで二階へ上がって行った。
わたしとアランは最後になった。
わたしは帽子を取り
「アラン。ありがとう」
「どういたしまして」
ふたりは嬉しそうに微笑み合った。
わたしは帽子を被り直すと、アランの腕に腕を絡めた。
そして皆の後を付いて部屋に入った
「素敵!」
白基調な店内にダークブラウンの窓枠や柱がマッチしている。あちこちに花が飾られ、デートするには最高の場所だ。
そして各自席に着く。
大きめのテーブルを皆が囲む。
フェリス様だけ男子側にいる。アランの左隣。
右隣にはティーク、そしてタックと続く。
それぞれペアと向かい合っている。
フェリス様はお連れの女子ふたりとだ。
ふたりは向かいのフェリス様じゃなくて、アランをチラチラ見ている
─分かるよ!格好いいもんね!
そして暫くして運ばれてきたのはオムライス!
デミグラスソースが掛かっている。
懐かしい!異世界初だよ!
実は先代国母様がオムライスに目がなくて、ここに通い詰めてレシピを完成させたとメニューに併記してあった。そしてわたし気付いてしまった
『きっと先代国母様。わたしみたいな転生者かもしれない。ふわふわパンケーキにオムライス。西通りにはホットドッグやハンバーガーもあると言うし、それも全部先代国母様が学生時代に商店街に通い詰めて考案したらしい。
ひとくち食べてみたけどこの味付け、もしかしたらわたしと同じ日本人かも!
絶対そうだわ!
確かエリザベス様のお婆様で……名前忘れちゃった。
その先代国母様のお陰でわたしはこうして、ノスタルジーに浸っていられるのです。
あっ!忘れてた!
カレーライスもあるらしい!』
家族を思い出した。
日本のね。
でももう泣いたりしないよ。
お別れはしたし、今は新しい家族にも馴染んできた。
そしてこうしてフェリス様達と楽しくガールズトークしているし、異世界を楽しんでいます!
「美味しい♪このオムライスもフワフワ!」
「楽しそうですねアイリス様。アイリス様のこんなに素敵な笑顔、初めて見ました」
フェリス様にわたしは少し身を寄せて、小声でぶちまけたよ
「学園での昼食はいつも殿下に見惚れて、呼吸困難ですから」
『息苦しい』ってことね。
そしたらそれを察したのかフェリス様と女子ふたりは顔を見合わせて
「贅沢言わないてくださいアイリス様♪」
王太子殿下に直々にテーブルマナーを教わっておきながら苦情を言うアイリスに、呆れと同情混じりで茶化す三人!
この女子達はソフィア様とロイヤルルームで食事しています。つまり昼食時、わたしと同じ空間にいるのです!
だから、色々察してくれているのです
「殿下に言い付けますよ♪」
「ごめんなさい。聞かなかったことにしてください。
ここはわたしがご馳走しますから!」
「「「やった!!」」」
元より、アランが『ここは持ちますから』と言ってくれていたのを、みんな承知の上で楽しんでいるのです。
わたし達はデザートまで頂いて、ホントに楽しい昼食を満喫しました!
そしてその様子を向かいの店の窓から見続ける者がいた。
アイリス側からはレースのカーテンであちらの人物は見えないが、あちらからはアイリス達の店内の様子が良く見える。
向かいの店にいる者は取り巻き達に囲まれて食事を終え、コーヒーをすすりながらアイリス達をずっと見ていた。
疲れたので少し楽にしている風を装い、視線はアイリスを追っていた。
その者の名はアーサー
アーサー・ジュエリク・フォラリス
王太子だ。
ということは……
お婆様の悪役令嬢は……
これからハンバーガーやらオムライスやら
パンケーキやら異世界に広める訳ね!




