悪い男
─むふふふふ♪
わたしイリス楓こと、アイリス・ユークラリスの相好は甘々に崩れている
─何故なら明日わたしはアランとデートするのだ!
そしてリリもララもそんなわたしを咎める事もない。
心しか同じジェイドとは別の意味の堅物リリも、心しか表情が緩んでいる。
ララはね……ヨダレ出してた
─えっと
わたしとアランだけじゃないんだ。
アランの従者のティークさんとタック君。
リリとティークさん。
ララとタックくん。
─三組合同デートするの!
白薔薇学園に黄薔薇棟ってあるのだけどね。
わたしのいる赤薔薇棟が貴族の女子の寮で、青薔薇棟が貴族男子の寮。
そして平民の男女の学園生の寮が黄薔薇棟なのね。
その裏手側に学園生をあてにした商店街があるらしいんだ。結構立派なやつ。
まだ行ったことがないから詳しいことはわからないけど……。
急用じゃない限り黄薔薇棟でも面会は制限されているからね、両親に会うのは商店街のカフェやレストラン等の食事処になるでしょう?
それを宛にしてか若者向けの商店街が出来た訳。
黄薔薇の学園生だけで900人くらいいるし、白薔薇学園学園全体のスタッフと御貴族様の従者を合わせれば2,000人以上もいるの。
ほとんど街のような学園から休日ともなれば、ゴソッと人が訪れる訳。
今は若者向けのオシャレな繁華街と、スタッフや親子さん向けのシックな商店街に別れている。
ご貴族様向けの高級レストランも有るしね。
白薔薇学園建立当初は御貴族は馬鹿にしてあまり行かなかったらしいのだけど、やっぱりキャピキャピしながら商店街での事を話す平民の女子のお喋りが耳に入る訳じゃない?
男爵家とか準男爵家の半分程は平民出身者だからね、下級貴族の皆様も利用しだして、今は上級貴族もお忍びで行くらしいの。
それに王族もね。
アーサー王太子殿下なんて何回も行っているらしいんだ。もちろん護衛を引き連れてね。
王族も目立つお忍びで通うから、そのせいで街をぐるっと壁が囲んじゃってさ。
だって変なヤツが入り込んで暗殺の危険性とかも増えるから、塀で囲って東西南北の門から出入りするようになったの。門番がちゃんといて目を光らせて不審者が入り込まないようにしている。
西門の外側には商店街で働く人の居住スペースになってどんどん発展している。そこにも小規模な商店街もある。
でも学園生は学園方面の南門からしか出入り出来ません。
治安の関係でね。
商店街ではお堅い挨拶は抜きになるよ。
流石に平民や下級貴族の方々はお忍び?の上級貴族の方々へ馴れ馴れしくは出来ないみたい
─うふふふふふふ
また馬鹿みたいな顔してる。
だって嬉しいんだもん!
最近食事はロイヤルルームで王太子殿下とばかりでしょう?放課後はアランは生徒会室に用事でいないし、わたしは殿下に毎日連れ回されているか、執務室でお茶しているだけ。
これだけ顔を付き合わせていたら、なんとなく殿下とも打ち解けて少しはお話するわけ。
ほとんどクリスタル殿下からの問いに答えるだけだけど、たまにわたしから話しかける。
先日もね
「殿下は……」
「アーサーと呼んでくれ。生徒会室やここ執務室ではそう呼んで構わない」
─う。呼びたくない。
─恋人みたいじゃない?
─やだ
「いきなり呼び捨てではわたしの心が壊れてしまいます。せめて様だけでもつけさせて頂けませんか?」
うっかり外でアーサーなんて呼び掛けでもしたら、ご令嬢の皆々様に『なんなのあの女!馴れ馴れしい!』なんて恨まれることは必定!
この頃やけに風当たりが強いのに……アリスの時とはまた違う敵意を向けられている。
その理由も心当たりあるし、納得も出来るし
『恨まれるだろうな~』という自覚もある。
アーサー王太子を一人占めしているようなものだからね。どちらかと言えば、わたしがクリスタルに一人占めにされているようなものだけど、誰も理解してはくれないでしょうね。
という訳でクリスタルアーサーに様づけは絶対!
「命令でもか?」
「お願いです。殿下。わたくし粗相が酷くて、つい外でも殿下を呼び捨てにしそうで怖いのです」
「わかった。しばらくは様付けでいい」
お許しを貰いました……ちょっと脱線してた。
聞きたい事とは
「アーサー様は生徒会会長でございましょう?
一応わたくしも生徒会の末席に加えさせて頂きました。ですが、わたくし1度も生徒会室に行ったことはございません」
「ございません禁止だ」
─?
「だからございません禁止だと言っている。もう少し砕けてくれ。
折角こうして学園生を満喫しているのだ。
従者に付きまとわれているようで、落ち着かない。
命令だ。もう少し砕けた物言いで頼む。
でないと答えないぞ」
命令なのに頼まれました
「ではお言葉に甘えて。
アーサー様は生徒会室にいかなくてもいいのですか?
……こんな感じでいいでしょうか?」
「まあ。まだ硬いが、いいだろう。
もう一月したらもっとも砕けろ。
それと生徒会の件だがボクは週一の会議くらいで、ほとんど顔を出さない。
お前のアランも含めて優秀な者が多いからな、お飾りは不要さ。
それに今は新年の立ち上げだから色々忙しくてな、ボクが行くと迷惑らしい。
だから暇潰しに君を連れ回している」
わたしは暇潰しみたいですね。
今はアランは生徒会に出ずっぱりだから、会えないからまだいいけど……。
こんな感じでわたしはほとんどを殿下と過ごしています。いつも思うのです。
─早く自室に帰りたい
☆☆☆
ここは王太子執務室。
ソファーに深々と掛けるアーサーと、それにしても凭れる紫の髪の美女。
カミラだ。
カミラは剥き出しの太ももをアーサーに擦られながら
「殿下もお人が悪いですわ」
「何の事だ?それに殿下はよせ。
気持ち悪い」
アーサーが太ももの奥に手を入れる。
その手をカミラは摘まんで奥から引き出す
「まだお早いですわアーサー。今夜また三人お呼びになったのでしょう?それまでご辛抱くださいな」
アーサーはふっと一息つくと、続きを促す
「ピンクの君を連れ回して、もう周りがヒドイことになってますわよ。あの娘
『殿下をたぶらかした悪い女』だの『二人のいい男を毒牙にかけている』だの。
兎に角凄い言われよう」
「そんなに酷いのか?」
カミラは頷き
「だってアーサー。今まで連れ回していた綺麗所。
皆様近づけさせないではありませんか?
あれでは憎むなという方が無理がありますわ。
このまま一月もしたらピンクの君。
相当恨まれて大変な事になりますわよ?」
「そうか……」
アーサーは口の端を歪めた
「もっと焚き付けた方がいいか?」
「お止めになってください。
これ以上焚き付けたら、下手したら刃傷事になるかもしれませんよ。女の恨みは恐ろしいのです。
事情の知っているわたくしでも、あまりいい気分がしないのですもの、突然遠ざけられたご令嬢の方々からすれば相当なものだと思いますわ」
アーサーは意外そうな顔をカミラに向けた
「お前はもっと冷たい女だと思っていたが、アイリスには優しいのだな?」
「そうね~。なんかねわからないけど、あの女には手を出さない方がいいような気がするの。
女の勘ってヤツかしら。
わたしはね、自分の勘には正直にありたいと思っていますわ。だからわたくしはあのピンクの君にお会いすることがあれば、フレンドリーに接したいと思っておりますの。
アーサーもほどほどになさってくださいな。
ホントに嫌な予感が致します」
「そうか……」
アーサーはそのまま黙りこくった。
沈黙に耐えかねてカミラは抱きつきながら
「ねぇ。アーサー?いつになったらピンクの君を落とすの?何処まで落とすのかしら?
今夜の私たちと同じベッドの上までかしら?
あの娘とってもいい身体してるから、楽しみ甲斐があるのではなくて♪」
「在学中のベッドは無しだ。
その点お前と同じだ。手を出したらヤバい気がする。
ただ心は俺の物にするがな……これだけ近くに居ても一向に心を開かない。頑なでいつも遠くを見ている。
俺なんか眼中にない。
これはゲームさ。
アイリス・ユークラリスを落とすゲーム。
難しければ難しいほど燃えるだろ?
だからこうして手間暇かけてじっくりと外堀を埋めている。来週にはアランに呼び出しがあり、今月末にはもう学園にはいない。糸は引いている。
10月が勝負だな。だが、焦らない。
ゆっくりゆっくり、じわじわと手繰りよせる」
「ほんと」
そんなアーサーの嬉しそうな顔をみて、カミラはため息をついた
「悪い男」




