エリザベスの謝罪
ダリル伯は何事が起こったのか分からずしばし放心していたが、エリザベス様と口づけを交わしているのに気付き驚愕して、慌てて離れる。
そしてエリザベス様の目付きの凄まじさに顔がみるみる青冷める
「あら!ダリル様。今し方思いも掛けず事故でお互いの唇が重なってしまいましたが、これは運命ではないのでしょうか?
それに直ぐ様、わたくしからお離れになりましたが、はて?何故アイリス様から離れずに、わたくしからはお離れになられるのですか?
アイリス様もこのように直ぐに、ダリル伯が離れて下さるとお思いになられたのではありませんか?
ましてやアイリス様。着座して、動けないのでしょう?
ダリル様がぶつけられて、ダリル様からアイリス様の唇にぶつかられたのでしょう。
それならば尚の事、ダリル様からお離れになるのが筋ではなくて?
そこのところご説明いただけまして?」
エリザベス様は一歩前に進み、距離を詰める。
また事故ればキスをしかねない距離だ。
直ぐ様モワモワダリルは下がる。
エリザベス様はまたも距離を詰める。
またモワモワ下がったのを見届けて
ほぉ~
と息をはいた
「埒があきません。そのように逃げ回っておいででは、あなた様の発言に真があるとはとても思えません。
アイリス様とは運命なのでございましょう?
ならば堂々とわたくしに反論なさってくださいまし。
アラン様。アイリス様。エイミア様。マーク様。
皆わたくしと目を合わせ堂々と発言なさいました。
そしてその発言が、アイリス様があなた様にほんのひと欠片も運命を感じていないということを示しております。皆様!」
エリザベス様はぐるーっと皆を見回す
「このようにだんまりを決め込んでいるダリル様に、皆様は信頼と安心を感じますか?
その言葉に真を感じますか?
目も合わせられず、わたくしの問にもいまだに答えてくださらない。
ここに十クラスあるうちの三クラスもの級長が揃って、初日の大切な時間をこのような下らないことで無駄にして!
ダリル様!あなた様が引いて頭を下げれは済むのではなくて?いい加減にしてくださいまし!」
謝罪で巻く引きを図るエリザベス様だが、ダリルはむくれっ面をして目を背けている。
その態度にクラスの雰囲気が悪くなる。
ダリルに向ける眼差しが痛い。
そこへエイミアが言葉を発した
「エリザベス様。ここはわたしにお預け下さいませんか?わたしとこのダリル伯は旧知でございます。
幼き時分から幾度となく同じ時を過ごしました。
そしてこのような駄々っ子のようなダリル伯になりましたら、もはやテコでも動きません」
これは幼馴染ってことね?道理でぶったときあんな顔していたんだ……。
それにしても駄々っ子って……あんたいくつよ。
「恥を忍んで申し上げれば、わたくしエイミアとダリル伯はこの夏の長期休暇の間、しばらく同じ屋敷に暮らし婚姻の約束を交わすつもりでおりました。
ところがこのダリル伯。家族が揃ったその場所でわたくしの従者の一人に懸想致しまして、あろう事かわたしには目もくれずその者に求婚したのでございます。
従者は今年婚姻を結んだばかりの新婚でこざいます。
相方との仲もそれは睦まじゅうございまして、直ぐにお断りを致したのですけれど、耳を貸しません。
アイリス様と同じように『これは運命だ』とほざいて、周りの忠告も無視して……。流石に我が父ダドリー伯爵も怒りましてこの話は流れました。
ところが一週間もたたぬうちに、シレッとわたしの元に現れまして『やはり我が妻とするならお前だけだ』とわたくしに求婚いたしました。
そしてあの騒動を起こされた従者とも顔を合わせたのですけれど、ケロっとして何事も無かったように振る舞うのです。
父は反対致しましたが、わたしは小さき頃から共に過ごすことも多く気心もしれているので、本当に反省して
『白薔薇学園を卒業するまで同じような問題を起こさなければ考え直す』
ことに決め、ダリル様にもそうお伝え致しました
『二度と同じ過ちは犯さない。我が運命はエイミアそなただけだ』
と約束して下さいました。
なのに……この有り様……それも初日で……もうこれでは父も流石に許してくれないでしょう。
わたしも……もし美しく着飾ったご令嬢が集うわたしの結婚式で『コレ』をやられましたら、生きてはいけません……もう……潮時でございます」
あちゃー!ダリル君!なにしてくれちゃってんの?
さっきのダリルをぶったときの涙……そりゃあ泣くよね。
そして凄まじい人生の修羅場だよ
エイミア様黒歴史をぶちまけて、悲壮な顔で佇ずんでおられるのに、ダリルモワモワ、わたしにウィンクしてる
─死ね!
思わず呪っちゃったわ!
それに他の学園生。皆なんとも言えない顔してる。
引いていたり、怒っていたり、エイミア様に同情したり、ただ共通していること……ダリル君に見ること向ける氷点下の眼差し。
この中で堂々としていられるダリル君!あんた強者だよ
「エイミア様。お話は分かりました。
このダリル様の件。エイミア様にお預け致しましょう。それでよろしくてアイリス様」
「はい。万事エイミア様にお任せします」
もはやわたしのでる幕ではない。もうモワモワどうしようもない。どうも期間限定でわたしアイリスはダリル君の『運命の人』らしいので、それまで躱すか脅すか賺すか逃げるかぶん殴るかその時々で対処するしかあるまい。
─はぁ~なんでこうなるかな~
自分のことだけでいっぱいいっぱいなのに、漏れなくモワモワが付いて来るとは……!……いた!
乙女ゲームのアイリスを応援する別名
『アイリス親衛隊』の中にコイツらしいのいた!
名前は付いていなかったけど、アイリスに無条件で好意を向けて助けてくれる天パ野郎
─たぶんコイツだ!
ごめんなさいエイミア様。わたしのせいかもしれない。
分からないけどゴメンナサイ。
でもこの天パ。わたしを助けてないけどね……。
エリザベス様が顔をエイミア様に向けた
「エイミア様。申し訳ありません。
ダリル様とは旧知の間柄だと前々から存じておりましたが、まさかそのようなやり取りがあったとは夢にも思いませんでした。
旧知のエイミア様とダリル様なら協力しあってアイリス様をお助け出来ると思い、このように同じクラスへと助言を致しましたが裏目にでたようです。
あなた様に恥をかかせるような事を致しまして、真に申し訳ございません」
そう言って、頭を下げられた
─エリザベス様が頭を下げられた!
皆驚愕の眼差しを向けている。
ほんの軽くであるが、エリザベス様は頭を下げられた。
余程の事がない限り貴族は頭を下げない。あろう事か、身分が上の公爵家の者が頭を下げるなど、あり得ないことである
─それも人の目があるところでなんて!
「とんでもございませんエリザベス様!
エリザベス様に何ら非もございません。ましてや頭を下げらる云われもありません。ああ。エリザベス様……。
これはわたしとダリル伯の問題でございます」
エリザベス様は、顔を真っ赤にして唇を噛み締めて必死に涙を堪えているエイミア様をそっと抱き締めた。
そして耳元で囁いた。
わたしには聞こえた
「この埋め合わせは必ず致します。今後どのような事があろうとわたくしはエイミア様の味方でございます。
わたしは公爵家の者としてではなく、一人の人間。
エイミア様の友としてこのエリザベスここに誓います。だから今後どんな些細なことでもわたくしに相談なさい。良い知恵が浮かぶとも限りませんが、あなた様の想いを聞いて共に考えることはできます。
よろしくて?」
エイミア様は頷きながら。
そんなエリザベス様を抱き返した。
──惚れ直したよ──
───ベティ──
 




