いきなりクラスのボスだよ!?
アランと今日の放課後は王太子殿下との謁見ではなく……ご挨拶に行くので、一緒にいれるかもしれない。
一昨日ソフィア様一緒に会ったばかりだから、別に会わなくてもいいと思うけど、この前のは非公式。
今回のはゾロゾロと公式というか『ちゃんと顔合わせしましたよ』的な事をこの学園内の生徒に知って貰う的なものらしい。
貴族は本音よりも建前の世界。
─ホントメンドクサイ
わたしは思うのであった。
そしていよいよ授業が始まる。
今日は初日だから、午後の授業はなし。
一応食堂でも食べられるけど、自室で摂ってもいいみたい。
でも今日はアランと一緒に食事するんだ。
テーブルマナーを教えて貰いながら……隣通しの言い訳
─これも建前になるのかな?
なんて考えているうちに、教室の前にたどり着いた
クラス3
─これがわたしの主戦場!
大体半分は入れ替わるらしいけど、顔がみんなのっぺらぼうだったアリスの記憶からすれば、皆初顔合わせ。
ドキドキする
わたしに気付いた生徒の何人かは、チラチラ興味深そうにこちらを見ている。
ここからがわたしの正念場だ。
深呼吸
─すー
─はー
どう?入る勇気出てきた?大丈夫そう?
いける?よしっ!行きますか!
─わたしは覚悟を決めた!
今までのアイリスがあれだから、きっとまた無視されるかもしれない。
わたしにとってはマイナスからのスタートだ。
でも、アリスの演技しなくていいだけマシ。
今、わたしにはアランもいるし、親友のベティもいる!
自室に帰れば、リリとララも出迎えてくれる。
─もうボッチじゃないんだ!
最悪は過ぎた!
ここから一歩一歩積み重ねればいい。
─下剋上だ!
ボッチから這い上がってやる!
なんて粋がってはみたけど、ホントドキドキしてる。
わたしは私らしく歩みを進めて行こう!
どんなに辛くてもわたしはいくつか自分ルールを作った
ひとと目が会ったら微笑むこと
心の中でも微笑むこと
いつも堂々として、胸を張ること
同い年のベティことエリザベス様がずっと小さい時からしてきたんだ。わたしもユークラリス伯爵家の名を背負い、生きていく。
アランにもう恥をかかせる訳にはいかない。
アリスは相変わらずだから、出現すれば一悶着あるかもしれない。それはいつもの事だから、改めろと言っても治るものではないし、直すつもりもない。
元々はアリスの体だから、アリスの好きにさせるつもり。フォローは出来ることはする。
出来ないフォローは清く諦める。
ただ。わたしはわたしだから、この状況の打開を諦めず腐らず自分の歩みをすすめる以外に道はない。
頑張るよわたし!と強がったらきっとまた潰れちゃう。
だから、肩肘張らずに楽に行こうと思う!
─では
ここから
この一歩から
─新生アイリス始めてみます!
わたしは胸を張り、笑顔で教室に入る
「おはよう!皆様!お元気で!
わたしアイリス。
アイリス・ユークラリスです。
これから一年間。
よろしくお願いいたします!」
周りがポカーンという口を開いてアイリスを見ている
「おはようございますアイリス様。
わたくしエイミア。ボルドー伯爵家の者です。
これからこのクラスはアイリス様が率いることとなります。よろしくお願い致します」
そう言って、銀色の癖っ毛の少女が挨拶してきた
─ん?見たことある。つんつんだ!
大講堂でわたしをつんつんした女の子だ
「こちらこそよろしくお願いいたします。
エイミア・ボルドー様でよろしくて?」
「はいそうでこざいます。アイリス様」
背はアイリスと同じくらい。少しふっくらしていてほっぺがほよってしている。頬が赤い。
瞳は鳶色で深みがある。
微笑むと人懐っこさが滲みでる
「エイミア様。先程、わたしがこのクラスを率いるとおっしゃりましたが、何故でしょうか?
わたし以前の記憶があまり定かではないので、このクラスや白薔薇学園の仕組みに疎いのです。
よろしければお教えいただけますか?」
わたしはホワホワ微笑んだ。
同じホワホワでも王太子殿下に向けた空気のようなヤツではなく『仲良くしたいな出来たらいいな!』の想いを込めたホワホワ微笑みだ。
「それではアイリス様。
先程の問いにお答え致します。
クラスでは、そのクラスで最も身分の高い者がクラス長になるのが慣例でこざいます」
そしてエイミアは説明してくれた。
このクラス3では伯爵家筆頭のわたしアイリスが一番身分が高いので、必然にクラス3の代表になること。
クラスにはわたしとエイリミアの他に、ダリル・アンダーソンの伯爵家も在籍していること。
伯爵家が三家も同じクラスに集うのは稀であること
「病み上がりのアイリス様をお助けするようにとの配慮かと思われます。本日、大講堂の集会の前にソフィア様やエリザベス様から直々にアイリス様をサポートするようにとおおせつかりました」
そしてエイミアは微笑んで続けた
「その折にアイリス様の人格、アリス様とイリス様のことも聞き及んでおります。お茶会にも参加致しましたし、事情は心得ております。
わたくしエイミアとダリルで、アイリス様をお助けし、このクラスを牽引することとなります」
ユークラリス家って、伯爵家筆頭だったっけ?
─忘れてた
それにソフィア様とエリザベス様、ちゃんとフォローしてくれていたんだ。ホントにありがたい
「よろしくエイミア様。わたしにこの大役が務まるとは思いませんが、精一杯務めさせていただくわ。
あなたがいてくれてどれ程心強いかしれません」
「こちらこそですアイリス様。さっ、席に案内致しますわ」
そう言って、部屋のほぼ中央の席に連れていかれた。
横五列、縦六列の左右と後ろからも三列目の席だ。
両脇の伯爵家に挟まれている。
ここは日本の教室とあまり変わらない。
でも古い時代の隣の机を合わせてペアにするのではなく、わたしの年代の教室。
広くて机が一台づつ独立している。
もちろん机は金属の丸いパイプ何か無いからね。
全部木で出来ている。イスも同様。
正面には、黒板。
後ろは棚組してあり、机の列と同じく上下六段で左右五段。荷物の置き場は席と連動して同じ位置らしい。
何か日本の教室と色々似ているのは、たぶん日本生まれの乙女ゲームだからかな?
教室もゲーム内の教室と似ている。
違うところは画面いっぱいににやけたイケメン男子がいないところ。
そして、自分の席に着く。
すると、ゾロゾロと教室の学園生たちが挨拶に来てくれた。
あ~その辺は身分制度がしっかりしているのね。
身分下の者が上の者に挨拶にいく。
わたしはただ座ってにこやかにホワホワしてそれを受ける。そしてひとこと挨拶を返す
「よろしくーー様」
ほぼこれだけ。
自己紹介で名前を言ってくれるから、それを反芻して先の文句を付け加えるだけ
─名前覚えたかって?
無理だね。覚えられない。
でも覚えたことは多い
制服は既製品が多い。アイリスのように体型に合わせてでっこびはつこびしている者は少ない。
そして襟。襟を見れば身分が分かるらしい。
襟元は縁に沿って基本シルバーのラインが入っている。そしてその内側にまたラインが入っている。
王族は特別で、金のラインが二本。合わせて三本のライン。
分かりやすく表記すれば内側から
王家 金、金、銀
公爵家 金、銀、銀
侯爵家 金、銀
伯爵家 銀、銀
子爵家 白、銀
男爵家 黄、銀
準男爵家 青、銀
騎士爵家 緑、銀
平民 銀
ちなみに外側の銀が共通のシルバーのラインね。
これを見れば一目瞭然。
ただ基本学生は王族のみ廊下ですれ違う時とか、身分の下の者は止まって過ぎ去るまで頭を軽く下げるのが基本。
公爵家にもそれは同じね。
だからわたしは廊下でクリスタルに会ったら、止まって頭を軽く下げて行き過ぎるのを待つ。
ベティにもそうね。
そこで声をかけられたら顔をあげて、ちゃんと受け答えするみたい。
─アリスはね……いつもこちらから突撃していた!
そして長話する訳よ!
その間他の人はずっと頭下げて待っているからね。
一応クリスタルが合図をすれば一礼してその場を去っていいことになっているけどね、すごい迷惑だと思う
─そりゃあ。アリス恨まれるよね
侯爵家など身分の高い上級貴族にはすれ違う時、止まらなくてもいいから道を譲って一礼するだけ。
礼をすれば立ち止まらず、そのまま行っちゃっていいみたい。
もちろん王族も上級貴族もその際返礼なし。
そのまま通り過ぎればいい。
返礼なんかしていたら大変だものね!
同じ伯爵家の人たちには目線を合わせた目礼だけ。
反対に子爵家以下の面々からは、廊下で道を譲られ一礼されちゃう!
ここしばらくは廊下を歩く時、人の顔より襟を見ている方が多くなりそう!
日本の学園ならそんな面倒な事しなくて済むし、学園内は気軽にスルー出来れば良いとおもうわ。
でも一歩学園から出たら身分の階級は生きている訳だから、学園の外で気軽にお友達気分で王族なんかに手を振ったら大変!
下手したら不敬罪でしょっぴかれるかも……。
この身分の壁は学園内でも生きていた方が、ベストかもね。
身分といえば名前。
王家に連なる者はミドルネーム付き。
王太子殿下でいえば
アーサー・ジュエルク・フォラリス
傍点のところは王族だけ付けていいらしい。
これはヨーロッパとか地球とは違うね。
あちらは普通にミドルネームあるもんね。
なんか今。当たり前に地球の元の世界のこと〈あちら〉って思ってた。
もう異世界がわたしの世界なんだなぁって
改めて思った。
で、貴族になれば姓が与えられる。
わたしでいえば
アイリス・ユークラリス
傍点のところが姓ね。
最後に平民には姓はなし。
名前だけ
─こんな所かな?
で。
─わたし、すごいよね!
初日でいきなりこのクラス3の
─ボスになっちゃった!




